人の命や健康に関わる医薬品を扱う製薬業界では、厳格な法的規制やレギュレーションに従って、規制対象業務を行うことが求められます。また、高齢化社会を迎えている日本では、医薬品に対する需要はますます増加しており、市場のニーズに合わせた迅速な対応が必要です。
製薬業界でのRPA活用のポイントをユーザー同士で共有するため、2019年12月16日(月)、大手町ビルにて第2回となるUiPathユーザー会製薬分科会が開催され、30名以上の方にご参加いただきました。
代表取締役CEO長谷川の挨拶でユーザー会がスタート。「製薬業界は人の命を助ける仕事。そこで働く皆様がやりがいを持って働ける環境を作る手助けができることを誇りに思います。RPAは魔法の杖ではありませんから、システムではなく人間を中心にした考え方が不可欠です。ユーザー会を通してこの考え方を育み、お客様に寄り添える会社になりたいと考えています。」
また、新製品や、製薬業界の企業の多くでERPとして導入されているSAPに関して触れ、「ロボットを使いこなすために、計画を立て、稼働し、効果測定をするという一連の流れが管理できる製品を2020年に順次リリースしていきます。さらにSAPユーザー向けのサービスも開始していきますので、お客様の自動化をお手伝いできる機会がますます増えていくことを楽しみにしています」と想いを語りました。
全社的なRPA化で約3万時間の自動化に成功した中外製薬
はじめに、中外製薬株式会社のITソリューション部エンタープライズアーキテクチャグループの難波氏にご登壇いただきました。同社でRPAの検討を開始したのは2017年10月。その後RPA展開に向けて社内に自動化を希望する業務を打診したところ、580件ほどの業務が候補にあがり、その中からまず28業務を選びRPA推進プロジェクトをスタート。
「まずロボットを開発する前に、現在の作業内容や作業手順を見直すことから始めました。具体的には基本方針として『その業務をやめられますか?』『他のやり方はありますか?』『プロセスをシンプルにしましょう!』という3つの言葉で業務を見直しました」と難波氏はいいます。
2019年半ばからは自社開発にも取り組んでいます。「社内で開発するにあたっては“RPA認定ランク”という資格を設けました。資格は3ランクあり、簡単なワークフローの修正やエラー箇所の指摘ができる“ベーシック”、簡単な業務プロセスをUiPathを使って自分で開発できる“エキスパート”、業務プロセスの変革をしながら延べ200時間以上の業務時間削減を達成できる“マスター”です。資格取得の認定式も行うなどして、モチベーションアップにつなげています」
こうした取り組みから、すでに2019年第3クオーターの達成成果としては26,143時間の削減を達成。2019年末には約29,222時間の削減を見込んでいます。
業務時間の削減に加え、利用者の声からもその効果を伺うことができます。ユーザーアンケートの結果、定量面でもっとも多かったのは、RPAのおかげで「他業務へのシフト・注力が可能になった」という回答で、全体の約71%を占めました。定性面では「14業務においてヒューマンエラーが削減された」が約41%を占めます。個別の感想では、「作業負担や心理的なものを含む身体的負担が軽減された」「定型作業の時間削減および、より付加価値の高い業務へのシフトによる業務改善効果を実感できる」という声もありました。
新たにRPA推進プロジェクトを「CHUGAI RPA」と名づけ、スローガンとして「Reconsider Productive Approach」を掲げました。「常に生産的なアプローチになっているかを再考することを心がけながら、今後もRPAを推進していきます」と難波氏は締めくくりました。
グローバルで中央集権的なRPAを推進する武田薬品
続いて登壇されたのは、武田薬品工業株式会社Global IT, Enterprise Digitalの池氏です。同社は全世界に80以上の拠点を持ち、研究所も製造施設も世界中に展開しているグローバルカンパニーであり、池氏が所属するEnterprise Digital 部署では、全世界・全部門のデジタル技術導入をサポート。なかでもRPAを推進するRPA Service Lineは、世界中・全部門に対し、標準的なグローバルプラットフォームで自動化機能を迅速に開発できるようなサービスを設計しています。このように同社では「グローバル標準が基本になっている」と池氏は語ります。
「理由は、まず標準化によるグローバルスケーラビリティ。地域間・部門間の横展開が容易で、法規制・セキュリティリスクも軽減できます。さらに全世界・全部署で展開することでナレッジの集約・一元化もできます。ベストプラクティスを活用することで合理的にプロジェクトを進めることができ、結果的に総コストの削減にもつながるのです。」
同社でも、RPA開発時にはまず業務の可視化・分類からスタートします。このステップではビジネス部門の知識が非常に重要になります。その後、RPAの候補となった業務をどのように自動化するか、もしくは業務そのものを改善する必要があるかを検討します。
「重要なのはRPA開発の流れを一方通行で済ませてしまわないこと。無理があると思ったら設計段階に戻る。たとえ運用段階にあっても業務プロセス自体の改善が必要だとわかれば、そこまで戻る必要があります。」と池氏は言います。
業務は、難易度の高低、再現性の高低を軸に4つに分類します。この分類で、難易度が低く再現性が高いものが、自動化の可能性がもっとも高い、RPA導入対象業務となるのです。反対に、難易度が高く再現性が低いものは社員が対応すべき業務。難易度・再現性がどちらも高い、もしくはどちらも低い業務の場合は、シェアードサービス・アウトソース対象の業務と考えられます。
さらに、ユニークなのは分類後の業務改善の方法です。「まず業務改善のポイントは『なくす』『減らす』『置き換える』という3つの視点。『なくす』は、業務を見直したうえでそもそも不要な業務とわかれば、業務自体をやめてしまうという方法。『減らす』の場合はさらに『簡素化』『標準化』『集約化』できないかという3つの視点で改善します。そして最後の『置き換える』に該当する業務が“自動化”を適用する部分となるのです」
セッション後、会場から「これまででもっとも成功した事例は?」という質問が出ました。池氏が一番の成功例としてあげたのは“監査目的で、サーバ設定事項のサンプル調査・分析を今まではしていたが、RPAを用いて全数調査・分析を可能とした”こと。「これは単なる工数削減に留まらず、監査の効率性を向上させることにつながります。視点の違う成功例としてとてもいい事例だと思っています。」と池氏は結びました。
テーブルディスカッションでは、5人1チームでのワークを実施。まずはRPAを使って「自動化してよかった業務」や「自動化したい業務」をポストイットに書き出します。実際に成果の出たものはピンク色、これから取り組みたいものは黄色のポストイットです。それらを縦軸は「シンプル・複雑」、横軸は「少量・多量」とした4象限マトリクスに貼りだして共有、テーブルごとに発表を行いました。
成果があったという声が多かったのは、「お客様からの問い合わせメール・アンケートを集計するロボット」「社内への定時退社の一斉メール」「資料保管のキャビネットの利用申請」など。なかでも「リマインドメールは特に効果があった。」という発表がありました。「SOP(標準業務手順書)のアップデートや契約書作成の期日、書類の承認期日などをロボットからリマインドさせました。特に承認作業は、それまで承認印を得るまで180分かかっていたものが8分で終わったという実績が出ています。また、人がリマインドするよりも、ロボットがリマインドする方が、正確さも高く嫌味がないので好評です」。また「海外の新しい研究論文をピックアップする」という成果も複数件みられました。
さらにRPA導入のフェーズが進んでいる企業からは、「現在、情報収集の自動化はかなりできている。収集した情報のフィルタリングや誰に配布するかなど、その先のシステムについて検討していきたい」という意見や、「Windows Updateの自動化ができると便利」「市場データの抽出もしたい」「FAXやメールなどさまざまな形式で受け取るお客様からの依頼を自動的に集計したい」などの意見も出ました。
ドキュメント管理や承認プロセスなど、規制対象業務が多くある製薬業界では、業務プロセスも緻密で多岐にわたります。業界ならではの業務におけるRPA活用事例が共有され、テーブルディスカッションは大盛況となりました。
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Japan, UiPath
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