人口減少や少子高齢化の問題に直面する日本社会において、欠かせないのが教育現場のデジタル化です。教職員の業務負担は深刻な社会問題となっており、学校における「働き方改革」、つまり現場の教職員がおこなう学校業務の効率化と生産性向上は急務です。
このような学校の「働き方改革」の一つの解となっているのが、RPAをはじめとするデジタルテクノロジーの活用です。学校の教職員は、煩雑な事務作業などにかける時間をできる限り短縮し、学生に向き合う時間を増やすことで教育の質の向上を実現していかなければなりません。RPAを導入し、現場の業務効率化を実現する教育機関が増えています。
今回は、2019年9月12日(木)にUiPathが開催した「教育改革の展望 「『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン答申』と『初等中等教育機関の働き方改革答申』 セミナー」の第二部では、実際にRPAを活用して教育現場の業務改革を実現した事例をご紹介しました。
第一部の様子はこちら:
デジタル時代の教育現場 vol. 1 ― 文部科学省の描く教育改革の展望とデジタルトランスフォーメーション
「Waseda Vision 150」にもとづき教職員の業務構造改革に取り組む早稲田大学
時代とともに大学教育に求められる役割が変化するなかで、大学職員の役割も同様に変化してきていると、早稲田大学の神馬氏は語ります。これからは大学の職員も、煩雑な事務作業から解放され、教育・研究をより直接的に支援する職員本来の業務に専念しなくてはなりません。同大学では、創立150周年を迎える2032年に向けた中長期計画「Waseda Vision 150」の一環として、「職員業務構造改革」に着手しました。
改革を進めるなかで最初に取り組んだのが、学部をまたがって共通する業務の集約化。これまでは各学部に設置していた、入試関連業務、学生支援業務、研究費や経費管理業務などから、各学部に共通する部分を集約することで効率化をはかりました。2011年には、およそ130か所で分散処理していた「支払請求伝票」の処理を段階的に集中化させるプロジェクトが開始しました。ところがプロジェクトを推進していくと、業務の集約には新たに20名ほどの人員が必要になることが判明。「ならばロボットを導入しては?」と、生産性向上策の一つとして候補に挙げられたのがRPAでした。検討開始からわずか5週間でトライアルロボットを開発し、2018年から実際に運用を開始したところ、創出時間は40,000時間を超え、導入効果は64.7%となりました。
「マニュアル化や現場への教育を含めると、運用開始までに要した時間は3か月ほど。でも、効果は想定以上でした。長年システム開発の仕事をやってきましたが、システムを導入して現場から良かったと言われることはほとんどない。こんなに感謝されたのは初めてです(笑)いまでは現場の職員も、新しい業務にどんどんRPAを導入していこうと取り組んでいます」と、神馬氏は語ります。
続いて株式会社早稲田大学アカデミックソリューションの櫻井氏より、RPAの全学展開プロジェクトの運営体制やガバナンスに関してご紹介いただきました。全学展開を推進するにあたり、業務にかかる時間削減やコストの面だけではなく、RPA導入によって生まれる新たな付加価値にも注目して効果を測定しました。全学展開プロジェクトでは情報企画部だけなく、人事部や総務部、経営企画課が一丸となり、RPAの開発も、現場のユーザーとIT部門も共同でおこなう「ハイブリッド型」で推進。ガバナンスの体制やライフサイクル、導入対象業務の選定基準などを制定し、専任職員にはオンライントレーニングを用意するなど、RPA導入の推進モデル構築も入念におこなわれました。2018年度に新たに開発・運用したロボットは14件に上り、すべて合わせれば年間約41,500時間の削減効果を上げています。
現在では、新たな取り組みとして、学内で勤務する学生スタッフ(Student Job)によるRPA開発や、AIの活用による高度な自動化に対する取り組みにも着手しています。「皆さんもRPA適用可能な業務や処理をイメージしてみてください。創出された時間の使い方は様々です」と櫻井氏は締めくくりました。
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事務職員の業務にRPAを導入し、校務全体の最適化を目指す茨城県
続いてご紹介するのは、RPAによる学校事務の効率化を行政の取り組みとして進める茨城県の事例です。
茨城県のRPA導入のスタートは、IT系民間企業でのキャリア経験を持つ大井川知事の、「RPAによって先生方の働き方改革をおこないたい」という強いリーダーシップだったといいます。RPAを「業務の効率化を図り働き方改革を進めるためのツール」と位置づけ、職員をPC相手の単純作業から解放し、真におこなうべきコアな業務に集中してもらうことを目的としています。
2018年度に約半年間かけて行った実証実験では、100名の職員から業務提案を募集。県立高校の予算令達登録や旅費申請代理登録などの4業務を選定し、導入に踏み切りました。その結果、業務量を約8割削減できる結果に。2019年度は対象業務を20業務に拡大し、現在ロボット開発が進められています。
RPA導入を担当する茨城県総務部の佐藤広明係長によると、茨城県では、労働時間の削減、ヒューマンエラーを防ぐ、業務負担の平準化、という3つのポイントで業務選定を行ったといいます。
特にポイントとなるのは、広範囲に及ぶ少量かつ多様な業務の中から、共通化する部分を吸い上げて標準化すること。自治体の業務は「少量多品種」で、隣の職員が何をしているかわからないほど、多種の業務を各担当者が行っています。しかしよく見れば、使っている書式やソフトが違うだけで同じような業務が必ず見つかるもの。例えば「申請書類の作成」なら、申請内容によって書式がエクセルやワードなどバラバラでも、申請の流れは共通している場合があります。書式をエクセルに統一するなど、一見多様に見える業務を標準化することができれば、より多くの業務の自動化を実現できるのです。
では、どのようにして対象業務を見つけるのか?まず鍵となるのは、「人手以上、システム以下」の業務を見つけることだと佐藤氏は語ります。煩雑かつ多くの職員に共通する業務は、すでになんらかのシステムによって定型化されている場合がほとんどです。RPAが担うべきは、「システム化するには至らないけれども、人がやるにはあまりにも辛い」業務。導入されているシステムの周辺をよく見ると、RPA導入の効果が高い業務が見つかるといいます。エクセルのデータをシステムに手入力しているなら、その入力作業をロボットが行うようにする。人手とシステムの橋渡しを担うことこそが、RPAの強みなのです。
茨城県では最初の業務として、県立学校の教員の出張旅費の申請代理登録業務を自動化。ほかにも県立高校の学校事務をはじめ教育現場へのRPA導入を進めています。ただし、これは教員の業務そのものを減らすものではありません。現在業務を削減できているのは、あくまで事務職員が行う学校事務。しかし、それが結果的に教員たちの働き方改革、ひいては教育の質の向上にもつながると佐藤氏は説明します。
「RPAの導入によって1校あたり約180時間、全体では20,000時間の削減が実現しました。それにより事務職員の空き時間を増やし、先生方のおこなう業務のうち、学校の運営に関する校務の部分で先生方のサポートに回れる状況をつくっているという考え方です。先生方が行う教育業務はまだロボット化に至っていませんが、校務全体のバランスを最適化して生産性を高め、教育サービスの質向上を目指していくことを考えています」
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大学や学校など、さまざまな教育現場の働き方改革で活用されるRPA。RPAを導入することにより、教育に携わる人たちが本来の仕事に専念することのできる環境が整えられ、ひいては教育の質向上に繋がります。社会の大きな変化に直面している教育現場のデジタル化が、人口減少や少子高齢化などの社会問題や、ひいてはSociety 5.0のビジョンを実現する足がかりとなるのです。
Japan, UiPath
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