多くの業界で人材不足が叫ばれる中、医療機関においても同様の課題を抱えています。高齢化による医療・介護ニーズの多様化に加え、正確な行政対応や医療制度への対応により業務量は高止まりしており、少子化も迎えており今後の医療現場の負担はますます重い。その様な中、RPAツールを導入し業務改革に着手する医療機関も増えつつあります。
2020年2月21日(金)、信州大学医学部附属病院様において「医療機関向けRPAセミナー」が実施され、UiPathも同病院でのRPA導入のパートナー企業として開催を支援しました。当日はwebセミナー形式での開催で、90名弱(33機関程度の医療機関)が参加。信州大学医学部附属病院・慶應義塾大学病院・丸子中央病院におけるRPA導入事例が紹介され、医療機関でのRPAガバナンス構築についての講演も行われました。当日の様子をご紹介します。
信州大学医学部附属病院 経営管理課 白木氏
「当院が抱えていた課題は、主に購買業務における間接業務の負担です。業務に必要なチェック項目や必要書類が増えても、その多くは紙伝票のままで、転記やデータ化にかかる工数は増える一方でした。そこで業務改革のためにUiPathの導入を決め、2019年1月から本稼働が始まっています。
RPAを活用した業務の一つが「システム間データ転記業務」。これまでは、看護師が紙伝票に記入したデータをエクセルに転記して発注書を作成し、財務会計システムに手動で入力していました。RPA導入後は直接クラウドデータベースに入力する運用とし、入力データを自動で加工、財務会計システムに自動反映されるように。1件あたり7分かかっていた作業を3.5分でできるようになり、年間1,448時間程度の業務削減効果をあげています。この他にも3つのメリットがありました。1つ目は購買フローが可視化できたこと。2つ目は既存の業務内容を全体的に見直すことで、AIの活用等将来を見据えたBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を実現できたこと。3つ目は業務属人化の排除で、入力者によってばらつきのあったデータ粒度が統一でき、より活用しやすいデータになった点です。」
「導入時のハードルは、私をはじめメンバーに高度なプログラミング知識がないことでした。しかし実際に使ってみると、優れたGUIで視覚的にわかりやすく、より多くの人が複雑なシステム開発を簡便に実施できるツールだと実感しました。とくにUiPathはe-Learningや教材などサポートも手厚く、それも安心して導入できた理由です。
来年度はRPA推進室を組織として確立し、開発者を5名以上育成することを目標に掲げています。大切なのは、RPAによって各自の業務が格段に楽になるということをたくさんの人に感じてもらうこと。自分自身も楽しみながら、今後の病院経営をサポートしていきたいと考えています。」
慶應義塾大学病院 医事統括室 山下氏・宗像氏
「当院では2018年5月にオープンした新病院棟の建設費用と業務委託費の問題が経営課題となっています。さらに、人材不足と業務量増大に伴い働き方改革への対応も急務でした。法人全体でも、旧態依然とした紙ベースの書類、データ処理の手作業の多さ、部門ごとに異なるシステムなどが問題視されており、2020年1月にデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する方向性が打ち出されました。
そのような状況下、病院部門では2012年の電子カルテ導入により業務が既にデジタル化していることから、2018年には法人全体に先んじて医事統括室にUiPathを導入。2019年6月から担当者1名をほぼ専任とし、本格的にRPA活用による業務改革に着手しました。
現在は約10のロボットが稼働していますが、そのうちの1つが「分散データエラー処理」です。電子カルテから医事会計システムにデータを取り込む際に発生する「分散データエラー」を従来は印刷出力し、担当者に配布。担当者が確認した内容を踏まえ、手作業で削除・追加・修正を行っていました。現在は頻発する分散データエラー5種類を対象に自動処理プログラムを構築し、1日のエラーの約60%強にあたる約370件を自動処理できるように。削減できる作業時間は年間1,100時間にのぼる見込みです。」
「その他にも医療材料マスタ登録、算定漏れ防止のための患者リスト抽出などにRPAを活用。現状、医事統括室1名・病院情報システム部1名の体制でRPA 開発を行っていますが、内製開発により業務フローの把握が容易なため、トライアル・メンテナンスがしやすいと感じています。
これまでの取り組みで、UiPathは電子カルテ上でもRPAで作業できることが分かりました。今後はRPA活用を拡大し、病院全体の業務効率化を進めていくために、RPA を知らない現場の人にも有用性を実感してもらいたいですね。現場の人からポジティブな反応をもらえることでモチベーションも高まり、システム改善や新規開発を継続する力になるはずです。将来的には事務だけでなく医療現場での活用も見据え、電子カルテの入力チェックやデータ抽出などでのRPA活用について医師や看護師の意見も取り入れながら検討を進めていき、医療の質の向上や医師の働き方改革に繋げていきたいと考えています。」
丸子中央病院 情報企画課 鈴木氏
「丸子中央病院は地域に根ざした医療機関として、医療から介護サービスまで切れ目のない医療介護サービスを提供することに力を入れています。部門ごとにシステムが独立しているため情報が分散していたり、紙ベースでの運用を続けている事業所があったりという状況下で、データ転記の多さや細かな集計の難しさなどが課題でした。こうした単純作業から働き手を解放して、当院が掲げる“地域のしあわせづくり”に貢献できる創造的な作業にリソースを使いたいと考え、RPAの導入を決定しました。
現場では“VISIT”という通所・訪問リハビリテーションの質の評価データを収集する厚生労働省のシステムへの「介護システムからの転記」業務にRPAを活用しています。データのエクスポートや形式の調整など複合的にロボットを組み合わせ、1週間ほどで安定稼働が実現。患者さん一人当たり約400項目のデータ120人分のデータ量があり手作業では60時間程度かかるのですが、およそ1時間で転記ができるようになりました。」
「今後の課題は、ロボットと人間がどう協働するか、作業のバランス調整です。すべての業務をロボットで行うのは難しいため、人間が適切なタイミングで介入すれば、さらなる業務効率化や業務品質向上が可能になるのではないでしょうか。またロボットの作業内容や品質をどのように管理していくかも課題。機密性が高く慎重に取り扱わなければいけない情報を扱っているため、ロボットによる意図しない作業をいかに防ぐかを考える必要があると思います」
有限責任監査法人トーマツ 矢澤氏
3つの医療機関でのRPA活用事例を受け、運用面でのガバナンスについての講演が行われました。矢澤氏は、組織が専門化・細分化していること、機密性の高い情報を取り扱うこと、法規制の影響を受ける業務が多いこと、システムへの二重・三重入力が多いことなどを医療機関の特色として挙げ、すでにRPAが稼働している場合はある程度のボリュームが想定された時点でできるだけ早くガバナンスを整備する必要があると説明しました。
「ガバナンス整備のポイントは、組織の状況や導入のフェーズによってかわってもよいので『全体を統括できる部門』がリードすること。まずは、セキュリティ事故に備え、サイバーセキュリティ・個人情報管理・不正アクセス管理などのリスク抽出と必要な管理ポイントの検討を。さらに、開発ルールの整備、エラーハンドリング、アクセスコントロールのルール・プロセスの検討も行いましょう。医療機関でのRPAの統制は、EUC(エンドユーザー開発)統制に付加していくのが現実的な方法です。開発・運用ルールの策定、効果を意識した環境の構築、そして第三者のモニタリングの実施。これらを三位一体で考えてほしいと思います」と締めくくられました。
今回登壇された3つの医療機関では、煩雑な定型業務を正確に素早く自動化できるRPAを活用することで、従業員の作業量の大幅削減を実現されていました。働く環境の改善により事務作業に携わる人材の定着率を高められるなど、経営課題のソリューションの一つとしてRPA活用への注目度の高さを感じるとともに、ガバナンスの重要性にも理解が深まるセミナーとなりました。
UiPathでは今後もRPAを通して医療機関の業務改善をサポートし、医療現場の充実と発展のために製品・サービスの強化を行なっていきます。
Japan, UiPath
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