事故受付・登録業務を中心に災害対応にかかる工数を40%削減
人材配置の柔軟性と顧客対応力を向上
災害対応で50人規模の業務を最少4人に
概要
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
本社 : 東京都渋谷区恵比寿1-28-1
業種 : 損害保険
あいおいニッセイ同和損害保険は、MS&ADインシュアランス グループの一員であり日本を代表する損害保険会社のひとつ。「全力サポート宣言(3つの宣言「迅速」「優しい」「頼れる」)」を顧客接点の行動規範と定め、顧客と地域社会に貢献することで「レジリエントでサステナブルな社会」の実現を目指している。
あいおいニッセイ同和損害保険が、業界に先駆けて災害対応プロセスにUiPathを本格導入し、大きな成果をあげている。損害サービス部門で扱う多様な業務に100台以上のロボットを適用。事故受付・登録から保険金支払いまで、膨大な件数の業務を大幅に効率化・スピード化することに成功している。台風や地震などの災害が相次ぐ中、業務負荷が集中しても顧客サービス品質を維持・向上できる体制を整えた。
MS&ADインシュアランス グループが、中期経営計画「Vision 2021」に基づく成長戦略を加速させている。重点戦略のひとつに「デジタライゼーションの推進」を掲げ、顧客体験価値の向上と業務生産性の向上という目標に向けて着実に成果を積み上げている。グループの一翼を担うあいおいニッセイ同和損害保険では、「2021年までに138万時間の余力創出、年間1,200トン使用している紙の大幅削減」という独自の目標を掲げて大胆な施策を次々と打ち出してきた。同社 代表取締役 副社長執行役員の黒田正実氏は次のように話す。
「IoTや自動運転などの技術が進化し、損害保険の対象である“モノ”が大きく変わりつつあります。この変化に適応しながらビジネスチャンスを獲得していくには、私たち自身のデジタル変革が欠かせません。紙と人に依存した業務プロセスからの脱却、契約事務・保険金支払事務のデジタルシフトをトップダウンで進めています」
損保業界では、顧客や支店・本店、代理店との間で複雑な紙ベースの事務手続きを多く残している。同社が2018年から始めたチャレンジでは、業務プロセスのムダを徹底的に洗い出すとともに、デジタル化が有効な領域を慎重に見極めていったという。
「デジタルシフトを進める上で大きな期待をかけたのがRPAによる自動化です。RPAは幅広い業務に適用でき、従来型システムのように多大なコストをかける必要もなく、即効性が高いことも評価のポイントでした」と黒田氏は振り返る。
あいおいニッセイ同和損保が、全社のデジタル変革に向けて選択したRPA製品がUiPathである。同社では2017年にPoC(概念検証)に着手し、2018年より複数の部門に対してUiPathによるRPA自動化の導入を進めている。中でも損害サービス部門における取り組みは、損保業界における先駆的な事例として注目すべきものだ。
あいおいニッセイ同和損保の損害サービス部門が、いち早くUiPathを採用した背景には、頻発する大規模自然災害とこれに伴う業務負荷の爆発的な増大があった。損害サービス業務部 担当部長の矢野明氏は次のように話す。
「台風や地震などの災害で、損害保険の支払対象となる案件は大きなもので2万件規模に達します。ところが、2018年に発生した台風21号では12万件を超えてしまい、従来の体制と手順ではとても迅速には対応しきれませんでした。この時、とても力になってくれたのがUiPathによるRPAによる業務の自動化でした」
損害サービス部門では、顧客からの連絡を受けて「事故受付」を行い、案件の詳細をシステム登録する「事故登録」を経て、顧客へ受付通知するフローを確立している。顧客からの連絡は災害発生から1週間にその半数が集中するという。ボトルネックになったのは、電話・Web・代理店経由で届く顧客からの連絡を、それぞれ手作業でシステム入力する工程だった。
「一刻も早くお客様にご安心いただかなければなりません。事故連絡を受けてからの初動対応をいかに迅速化するかが最大の課題でした。2018年の台風21号の対応では、事故登録システムの入力工程に急遽UiPathを導入して難局を乗り切りました。さらに翌年8月には、事故受付システムにUiPathを適用して受付・登録工程でのボトルネックを解消しました」と損害サービス業務部の山端広樹氏は話す。
UiPathの導入と同時に新しいワークフローシステムが整備され、上流工程からのデータ化、現場業務のペーパーレス化が進展したことが、RPAの導入効果を高めることにつながったという。矢野氏は次のように振り返る。
「その後、保険金支払い業務にもUiPathの導入を完了させましたが、UiPath日本法人によるスピーディな対応には本当に助けられました。これにより、損害サービス部門の最大のミッションである『事故受付-事故登録-保険金支払い』という業務フロー全体に、UiPath によるRPA自動化が適用されたことになります。従来40~50人を要していた災害対応のある業務工程は、最少4人で対応可能になりました」
あいおいニッセイ同和損保では、組織横断的な「自然災害対策プロジェクト」を発足させ、全社を挙げて大規模災害への対応力強化を推進している。その一環として整備されたのが「災害対応バックアップセンター」である。損害サービス業務部の成松直樹氏は次のように説明する。
「従来は、災害の発生ごとに対応拠点を編成してきましたが、専門性の高いスタッフが常駐する『災害対応バックアップセンター』に機能を集約することで、より迅速なお客様対応が可能になりました。同センターに業務を収斂するとともに、UiPathとワークフローシステムにより業務をデジタル化して、膨大な案件に高効率かつスピーディに対応する体制を整えています」
「お客様をお待たせしない、不安にさせないことを何より重視した」と成松氏は強調する。実際に、初動対応の迅速化が顧客満足度の向上につながっていることが、アンケートやコールセンターへの問合せ情報の分析などにより明らかになっているという。
「UiPath導入により、事故受付・登録業務をはじめ、災害対応にかかる工数を40%削減することができました。また、事故登録に携わっていた100名以上のスタッフを半減させています。これにより、私たちが注力すべき『お客様の安心につながるサービス』『お客様満足度を高めるためのサポート』に、半分のスタッフを再配置することができました。大規模災害発生時に、より柔軟な人材配置で対応可能になったことも大きな成果と言えるでしょう」と矢野氏は評価する。
大規模災害発生時への対応は、いつどれだけのリソースが必要になるか予測できないためシステム化が難しい領域でした。災害の規模が大きくなり、毎年のように被害を繰り返す中で、RPA導入が変革への大きな一歩になったことは確かです。
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 代表取締役副社長執行役員 黒田 正実 氏
あいおいニッセイ同和損保では、複数の部門に対してUiPathの導入を進めているが、経理部門でも大きな成果をあげている。全国の営業拠点で発生する膨大な数の精算書の処理プロセスに、UiPathによるRPA自動化を適用。入金明細・債権データの収集、精算状況の調査、報告内容の確認、データの消し込みをUiPathにより自動化し、2019年度には、約3.9万時間の工数が削減され、今後も削減時間の拡大を見込んでいる。黒田氏は次のように話す。
「業務改革はいわば永遠のテーマであり、デジタル変革と呼ばれる新しいステージにおいても積極的に取り組んでいく覚悟です。大規模災害発生時への対応は、いつどれだけのリソースが必要になるか予測できないためシステム化が難しい領域でした。災害の規模が大きくなり、毎年のように被害を繰り返す中で、RPA導入が変革への大きな一歩になったことは確かです」
UiPathによるRPA自動化は、様々な業務で着実に効率化をもたらしているが、黒田氏が強調するのは「次にどうするか」である。
「業務効率化をどのように私たちの価値創造につなげていくか、お客様満足度の向上に結びつけていくか――デジタル変革の本来の意義を追求していかなければなりません。そうした意味で、災害対応へのRPA適用は理想的なモデルケースとなりました。お客様へのアフターサービスの大幅な改善が、ビジネスの競争力につながっていくことは間違いないでしょう」
黒田氏は、「人でなくてもできることは徹底的にロボットに任せていい」「人が優れている領域で人の強みを活かしたい」と強調する。一方、UiPathは「ハイパーオートメーション」を新たなテーマに掲げ、RPAとAIなどを組み合わせて自動化可能な領域を拡大していく方針を示している。人とロボットの関係性はこれからどのように変わっていくだろうか。黒田氏は次のようなビジョンを示して締めくくった。
「デジタル変革を掛け声だけで終わらせないためには、13,000人以上の全社員が自分の仕事を見つめ直し、自分ならではの価値創造を考えながら、より良いお客様サービスに向け創意工夫を発揮できるよう変わっていくことが必要です。企業として社員がそうした意識で取り組めるよう、環境を整えていく必要があり、UiPathには、RPA技術をより使い勝手の良いものに進化させ、私たちの変革へのチャレンジを支え続けてくれることを期待しています」
(文中の所属・役職等は2020年3月のものです)