クラウド環境下でのロボット運用を前提とした移行プロジェクト
エラーが発生していたSAP連携の安定稼働も実現
グループ全体でのAI活用の構想を描く
概要
大和ハウス工業株式会社
本社:大阪府大阪市北区梅田3丁目3番5号
業種:建設業
大手ハウスメーカーであり、戸建住宅から賃貸住宅、マンションなどに幅広く事業を展開。店舗やショッピングセンターなどの商業施設のほか工場や物流施設、介護関連施設などの建築も手がける。このほか再生可能エネルギーの普及に貢献する環境エネルギー事業や海外事業も展開する。「人・街・暮らしの価値共創グループ」として、一貫した価値の提供に取り組んでいる。
大和ハウス工業(以下、大和ハウス)は、戸建住宅をコア事業に、賃貸住宅、分譲マンション、商業施設、事業施設、環境エネルギーなど幅広い事業を展開する。同社はDX(デジタルトランスフォーメーション)を戦略的に推進しており、その1つがRPA(Robotic Process Automation)を活用した自動化による働き方改革である。RPAの導入は2016年からと、大手企業として先駆的な取り組みを見せ、その実績を年々積み上げる。一方で、当初の自動化ツールを継続利用することの課題にも直面。今後の要件を満たすツールとしてUiPath製品を選定した。100体超の既存ロボットの移行を終え、グループ展開に舵を切る。今後はUiPathが推進するAI活用などにより、さらなる業務効率化と企業価値向上を図っていく。
大手ハウスメーカーの大和ハウス工業(大和ハウス)デジタル戦略担当の執行役員である松山 竜蔵氏は、IT化やDXについてこう語る。「DXは企業価値を生み出すためのものでなければなりません。そのため、大和ハウスは『DXアニュアルレポート』を毎年発行し、IR情報としてステークホルダーに開示しています。DXにしっかり取り組んでいる企業ほど価値が高いと判断され、株価にも良い影響があると考えます」。
そうした経営的な方針の下、大和ハウスでは2つのデジタル化を進めている。1つは顧客やバリューチェーンのデジタル化、もう1つがバックオフィスのデジタル化である。バックオフィスのデジタル化は「働き方改革の大きな要素であると同時に、社内業務の効率化が業務全体のスピードを上げ、お客様への価値提供に役立つ重要な取り組みです」(松山氏)。
大和ハウス工業株式会社 執行役員 デジタル戦略担当 松山 竜蔵氏
バックオフィスのデジタル化では、2016年からRPAによる自動化の取り組みを始めており、2023年度までに大きな成果を出している。一方で、6年ほど旧RPA製品を使ってきた2022年ごろになると、RPA活用のさらなる強化と拡張を目指すことになった。RPAの効果が顕著に表れたグループ展開を考えるのは当然のこと。ただし旧RPA製品はオンプレミス環境での導入形態であり、クラウド化、ネットワーク化したグループ展開が難しかった。
RPA導入による効果額と業務削減時間の推移
RPAの推進と運用の体制は、2016年当初は大和ハウスの情報システム部内に置いていた。これを2022年10月に情報システム子会社のメディアテックに移管。メディアテック社内にデジタルファクトリーという開発専門の部署を新規で立ち上げ、オートメーションのプロ開発チームを構築した。松山氏はメディアテックの代表取締役も兼務しており、デジタルファクトリーに大和ハウスグループ全体のDX推進を加速させる役割を割り当てる形とした。
その理由を松山氏はこう語る。「グループ会社から本社の情報システム部門に対してロボット作成を依頼するのは敷居が高くなりがちです。一方でIT子会社のメディアテックに対してならば、グループ会社からも相談しやすくなるのではないか。もう1つ、ロボットを作成する側の視点としても、情報システム部門がつくると社内業務になりますが、子会社がグループ他社から依頼された業務ならば事業収益になります。開発のモチベーションが上がりますし、積極的に新しい機能を追加する機運も生まれます」。メディアテックのデジタルファクトリーで、プロビルドによる開発をし、標準化や部品化を進めることで、グループ展開時に「ロボット派遣」をしやすくなるというメリットも期待する。こうして、グループ展開が可能なRPA製品へのリプレースが急務になった。
RPA製品のリプレースに際して、大和ハウスではグループ展開のしやすさと将来性を重視した製品選択を行った。「開発スピードの向上、コストを踏まえたグループ会社展開、製品寿命を考慮した事業継続性を鑑みました」(松山氏)。製品選定に当たってはガートナー社が発表する市場調査レポート「マジック・クアドラント」も参考資料とした。
松山氏は「実はUiPathは2016年のRPA導入時点でも候補に挙がっていました。ガートナーではRPA製品のリーダーとしてUiPathを評価しており、導入当時からの進化を再確認した形です」という。メディアテック ITマネジメント技術部 デジタルファクトリー課長の中山 昌志氏は、「IT子会社として、クラウド型の構成でネットワークを介したグループ展開をしやすい構成と、AI機能を取り入れるといった将来性を評価しました。また、メディアテックでは活発に採用活動をしていますが、RPAのリーダーポジションであるUiPathは、その分開発経験者が最も多いことから、開発リソースの確保に役立つ点でも評価しました」と続ける。
同じく、デジタルファクトリー主任の中右 雅之氏は、「PoC(概念実証)において、旧RPA製品より開発生産性が向上したことも大きな決め手でした。また、将来的な可能性としてですが、市民開発への適応のしやすさも考慮しました」という。
株式会社メディアテック ITマネジメント技術部 デジタルファクトリー 課長 中山 昌志氏
株式会社メディアテック ITマネジメント技術部 デジタルファクトリー 主任 中右 雅之氏
UiPath製品を導入し、旧RPA製品からロボットの移行を始めて約9カ月経った2024年7月、大和ハウスのロボットがUiPath上ですべて稼働するようになった。その数は110体に上る。9カ月という期間をかけたことについて松山氏は「開発者にUiPathのスキルを付けてもらう意味もあり、一時的にリソースを追加する集中移行よりも、時間をかけて切り替えることを優先しました」と語る。既存ロボットの切り替えが終わったことで、いよいよグループ展開に本腰を入れられるようになった。中右氏は「グループ会社からRPAの用途の相談などがあり、横展開に着手したことを実感しています」と話す。
UiPathへ移行し、そのメリットも享受する。処理速度が上昇したロボットがあるだけでなく、「旧RPA製品では安定しなかった、SAPや他のアプリケーションとの連携操作などの安定化が図れて助かっています」(中右氏)。開発者の視点からは、UiPathには多くの製品群や機能があり、開発者のスキルに合わせて開発できることにより効率向上につながっているともいう。
2024年11月時点で、開発および運用保守メンバーは11人まで増えた。大和ハウスで110台のロボットが稼働しているほか、グループ展開により11台のロボットが稼働を始めた。開発生産性も向上した。「旧RPA製品では15日だった要件定義からリリースまでの開発の平均期間が、UiPath導入後はすぐに1日短縮しました。(2025年1月時点で、3日短縮)大半を占める要件定義の時間は変わりませんから、新規メンバーが加入していることも考慮すると、開発効率が高まり、さらに期間短縮の余地があることになります」(中山氏)。
オートメーションのグループ展開を進める一方で、さらなる自動化を目的に、UiPath提供のAI機能導入を検討している。中山氏は、米国で開催されたUiPathのグローバルカンファレンス「FORWARD」に参加し、AI活用の最新事例に接した。「どうAIを使えば大和ハウスグループの企業価値向上に貢献できるか、検討を始めています」(中山氏)。例えば、AIエージェントとロボットを組み合わせることで、非構造化データを含むエンドツーエンドのプロセス自動化を目指すような変革を挙げる。具体的には、ドキュメント処理を自動化する「IDP」(インテリジェントドキュメント処理)機能や、AIエージェントの「Autopilot for Everyone」の活用、また開発生産性・保守性を上げるためにワークフローの自動修復ができる「Healing Agent」機能を利用したロボットにより、グループ会社への貢献の幅を広げていきたい考えだ。
AI活用については、松山氏はさらに今後を見通す。「働き方改革の推進に加えて、ロボットやAIを使った顧客接点の拡大や顧客価値の増大についても視野に含めることになるでしょう。お客様や取引先との接点でRPAのロボットがエージェントのように動いて、価値サービスを提供していく時代が到来すると考えます」。
UiPathの導入には、大和ハウスの情報システム構築を古くから手がける伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)も支援した。CTCはUiPathのパートナーとして導入実績が多くあるだけでなく、自社内でも活用してベストプラクティスを積み重ねている。松山氏も「古くから大和ハウスの情報システムを熟知しているCTCに、UiPathの導入経験から力を貸してもらいました」と評価する。
中右氏は、「今後の自動化には、AIによる判断を取り入れることが必要になってきます。UiPath、そしてベストプラクティスを持つCTCと一緒にAI活用を進めていきたいと思います」と語る。また、中山氏も「さらにプロセスの自動化に取り組んで、大和ハウスの業務課題をどんどんクリアしていきたい。UiPath製品はそれに貢献できるツールだと思います」と話す。
松山氏は「ただでさえ労働者が不足している日本の産業で、自動化ツールを使わない手はありません。その中で、きちんと動くだけでなく、拡張性や将来性があるUiPathを1つの選択肢として使っていきたいと思います」と、大和ハウスの価値提供のエンジンとしてUiPath製品に期待を寄せている。
株式会社メディアテック デジタルファクトリーの開発チームのメンバー
「自動化の目的は働き方改革とよく言われます。しかし、働き方改革の真のねらいは、社内業務のスピードを上げることでお客様に提供する企業価値の向上につなげることにあります」
大和ハウス工業 執行役員 デジタル戦略担当
松山 竜蔵氏