概要
NECフィールディング株式会社
本社:東京都港区芝浦4-9-25 芝浦スクエアビル
業種:情報処理 各種ビジネスサービス
NECグループ企業として、コンサルティングから設計、構築、保守、運用に至るICTシステムのライフサイクル全領域をカバーし、ワンストップサービスを提供する。障害発生時のコール受付から部品配送、保守、修理のアウトソーシングサービスに多くの実績を持つ。全国約340拠点に、3200人超のフィールドエンジニアを擁するネットワークで、顧客システムをトータルにサポートしている。
NECソリューションイノベータ株式会社
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/
本社:東京都江東区新木場1-18-7
業種:情報・通信業
NECグループの社会価値創造をICTで担う中核会社であり、SI・サービスを全国で提供している。社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)に継続的に取り組む経験を通じて、社会や顧客のDX推進に貢献する。国内でもトップクラスの規模となる1万人を超えるエンジニアを抱える企業として、社会基盤をICTで支え、顧客の企業価値向上や社会課題の解決を目指す。
多様なハードやソフトなどITシステムに関連するカスタマサポートを請け負うNECフィールディングのコンタクトセンター。顧客情報を一元管理するCRM(Customer Relationship Management:顧客情報管理)を、レガシーシステムからSaaS(Software as a Service)のSalesforceに更新する決断をした。ところが、メールやWebなどの周辺システムからCRMシステムへの情報入力を自動化していた既存のRPA(Robotic Process Automation)が、Salesforceでは動作が困難になることが分かった。NECフィールディングは、NECグループでシステム開発を手掛けるNECソリューションイノベータと検討を進め、API連携方式で情報入力が可能なUiPath製品の導入に踏み切った。その成果は、90%近い起票成功率と、従来比平均3分の1という処理時間短縮に表れた。
パソコンからメインフレームまで幅広いハードやソフト、ネットワークまでをカバーし、顧客のITシステムの問題を受け付けているのがNECフィールディングのコンタクトセンターだ。同社のカスタマサポート統括部では、NECグループの顧客などからの問い合わせやトラブルへの対応の依頼を一手に引き受ける。顧客からの問い合わせなどは年間12万~13万件にも上る。
カスタマサポート統括部長の荻原 勉氏は、「コンタクトセンターはお客様からのファーストコンタクトの窓口です。その品質向上はもちろんのこと、プロセスや要員の管理による徹底したコスト削減にも目を配ります」と語る。コンタクトセンターは、東京の新宿区と世田谷区、大阪を主要3拠点とし、業務を遂行する。新宿ではハードウェア保守の受付やネットワークサービスセンターの業務を、世田谷ではスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどのITシステムのヘルプデスクを主に担当する。大阪はサービスを止めないためのバックアップ拠点としての位置づけだ。
NECフィールディング カスタマサポート統括部長 荻原 勉氏
そうしたNECフィールディングのコンタクトセンターで、自前のCRMシステムを刷新するプロジェクトが持ち上がった。2018年頃のことで、「CRMシステムが導入から20年ほど経って老朽化し、クラウド型で提供するSaaSに移行することになりました。NECグループのシステム開発を担当するNECソリューションイノベータの知見も借り、新CRMにはSalesforceの採用を決めました」(荻原氏)。
従来のCRMシステムの業務効率化に大きな役割を果たしていたのがRPAだった。カスタマサポート統括部の神野 浩邦氏は、「修理などの依頼は、電話による通話以外に、Webサイトのフォームや電子メール、音声の自動応答でいただくことが増えています。これらはそれぞれ独立したシステムで稼働していて、CRMに情報を転記する必要があり、そのためにRPAを導入してシステム間をつなぐ処理作業を行わせていました。これは全体の6割強に達する処理量でした」と話す。ところが、CRMを従来システムからSalesforceに更新することで、RPAによる自動化が使えなくなる恐れが出てきた。
NECフィールディング カスタマサポート統括部 コンタクトセンター戦略グループ マネージャー 神野 浩邦氏
利用していた旧RPAは画像認識型の製品で、ロボットが画面上の指定した部分にあるデータを選択して処理していた。一方、Webアプリ型のサービスであるSalesforceは、Webブラウザ上ですべての情報を表示するのに画面をスクロールしなければ処理部分にたどり着かない、サービス画面そのものの突発的な変更が発生する、といった問題に直面した。NECフィールディングの情報システムを統括する経営システム統括部の福井 桂太氏は「SalesforceをはじめとするSaaSでは、画面の変更は頻繁にあります。年間3回の大きな更新に加え、月に何回かの変更もあり、画面認識型のRPAでは追随が難しいのです」と指摘する。
NECフィールディング 経営システム統括部 エグゼクティブマネージャー 福井 桂太氏
CRMシステムのSalesforceへの移行が進む中で、2022年後半にはRPAの対応が切迫した問題になった。「これまで使っていたロボットも工夫すれば動くだろうと考えたこともありましたが、それは難しいことが分かりました。お客様へのサービスは止められないので、対応を根本から検討することになりました」(荻原氏)。
Salesforceへの移行は決まっている。そこでNECフィールディングでは、SalesforceのアプリストアであるAppExchangeを調べてみた。「ちょうどその頃、SalesforceとUiPathのロボットの親和性が高いという情報を目にしていたこともあり、自動化分野で大手のUiPathで要件が実現できるかを確認することにしました」(荻原氏)。
同時にシステム部門の視点から福井氏も動き出した。「RPAはSaaSでは安定しないケースがあるという声を聞き、対策としてコネクタを使ってAPIでつなぐ方法を考えていました。APIを使ってSaaSと連携すれば、画面の遷移などは関係なく必要な情報をやり取りできます。システム開発を依頼しているNECソリューションイノベータにも相談し、UiPathのサポートを受けられることを確認しました」(福井氏)。
NECソリューションイノベータでRPAの導入を手掛けてきたビジネス基盤事業部の板倉 寛征氏は、「RPAは黎明期から、特定のツールに限定せずに導入を進めてきました。その結果、NECグループ全体で、RPAによる業務削減効果として年間20万時間という成果につながっています。UiPath製品にもかねて親しんではいましたが、NECフィールディングからUiPathによるAPI連携の相談をいただき、情報収集と検証を進めることにしました」と当時を振り返る。
NECソリューションイノベータ ビジネス基盤事業部 主任 板倉 寛征氏
UiPath製品としては、ロボット自体にもAPI連携の機能は備えていた一方、API連携に特化した「Integration Service」も市場に投入されていた。「ノーコーディングでAPI連携ができること、権限関係のコネクションの確立の機能が用意されていたことなどを確認し、Integration Serviceの利用を主に検討することにしました。UiPathのエンジニアから情報を提供してもらいながら、検討を進めました」(板倉氏)。
検証すると、画面認識型のRPAよりも速度面の効果が上がるだけでなく、画面のポップアップなどにより処理が止まることが少なく、安定性の面でも優れていた。NECグループ内でUiPath製品が導入されている事例があることも後押しし、NECフィールディングはUiPathのIntegration ServiceでAPI連携を実現することに決めた。
決め手になる条件はこの他にいくつもあった。「Salesforceにはユーザーが独自に定義できるカスタムオブジェクトが用意されていて、NECフィールディングでは約50のカスタムオブジェクトを使っていました。これらが、Integration ServiceのAPI連携ですべてカバーできることが分かりました。また、Integration ServiceはSalesforceの認証プログラムを通過していて、Salesforceのサポートが受けられます。ミッションクリティカルなシステムを運用する立場から安心感がありました」(福井氏)。
実は、Integration Serviceの採用だけで、すべてのシステム間のやり取りを自動化できたわけではなかった。Salesforce以外のレガシーシステムが一部で残っており、その情報もリンクする必要があったためだ。これに対しては「UiPathのロボットを利用して、1つのプラットフォームでレガシーシステムとSaaSへの対応を両立できました」(板倉氏)。
コンタクトセンターのCRMがSalesforceに切り替わる予定の2023年8月に向けて、同年2月にUiPathに発注し、半年ほどの期間でいくつかの段階を経て移行はスムーズに進んだ。福井氏は「UiPathとNECソリューションイノベータにはタイトなスケジュールに対応してもらい、感謝しています」と語る。
Integration Serviceを活用し、UiPath製品による新たな自動化の仕組みが動き出した。その実際の成果はどうだったか。荻原氏は、「お客様からの問い合わせを起票する際の中間の処理をUiPath製品で実施しており、私たちの視点では起票の成功割合が高いほど成果が上がっていることになります。データの前処理などのチューニングを加えることで徐々に成功率が上がり、現在では90%近い成功率が安定して出るようになりました」と話す。月間1万件近い問い合わせの約6割がロボット経由の処理になるとして、およそ6000件が処理の対象になる。「全体の問い合わせ件数が増加しているだけでなく、ロボットが対応する問い合わせの比率も高まっているので、成功率の向上は大きな業務削減効果につながります」と荻原氏は説明する。
NECソリューションイノベータの板倉氏は、それまでと同じ9台のUnattended Robots が並行稼働している現状について、「従来のロボットに比べて全体の平均で3分の1程度まで処理時間が短縮しています。一部、画面認識型のロボットが残っているのですが、それでもAPIの処理の高速化の効果が大きく表れている結果です」と語る。ロボットのキャパシティの余裕は、処理すべき問い合わせの増加傾向を考えると安心材料となる。
「これまでの画面認識型のロボットでは、止まっていないかを人間が監視しながら利用していました。Integration Serviceになってからは、API連携でスムーズに自動化できていて保守や運用の観点でも効果を発揮してくれています」(神野氏)。NECソリューションイノベータ ビジネス基盤事業部の磯野 圭佑氏も「多くのRPAツールを経験してきた中で、UiPathのツールは安定性が高い印象があり、その上で処理スピードが速いことも実感しています」と評価を裏付ける。
NECソリューションイノベータ ビジネス基盤事業部 主任 磯野 圭佑氏
CRMに対する起票の自動化で実際に効果を確認したNECフィールディングでは、UiPath製品活用の拡大を見据えている。「すでに、ネットワーク系の監視でも処理の自動化に使えないかなど、複数の検討プロジェクトが動き始めています。モダンなシステムとレガシーのシステムが共存する環境はよくあります。幅広いシステムに柔軟に対応できるUiPathプラットフォームが強みを発揮する場面は多いと考えています」(神野氏)。
福井氏も、「多方面で業務効率化やサービス品質向上に役立てられると思います。AIや音声の活用なども進めて、お客様へのサービス品質を高めていきたいと思います」と、UiPathプラットフォームの利用を広く後押ししたい考えだ。幅広いナレッジを得られるUiPathのユーザーコミュニティの存在にも触れる。「実際にUiPathを使っている方々からの情報は大変有益です」と話し、そこで蓄積した知見を今後のサービス展開に生かしたいとしている。
荻原氏は、「我々の部門でこれだけの成果が出ていることを社内に展開し、社内の多くの部署でUiPathの活用の場を考えてお客様に価値を提供していきたいと思います」と語る。安定性に優れたロボットに加えて、多種多様なシステムとのAPI連携を手軽に実現できるIntegration Serviceを用意し、AI活用ソリューションも続々と提供するUiPathの動きに、NECフィールディングとNECソリューションイノベータは今後も期待感を持って注目していくという。
「単にシステムをつなげて自動化するだけなら別の方法もあったかもしれませんが、レガシーな基幹システムからクラウドのSaaSまでトータルで自動化するとなると、柔軟性が高いUiPathの選択がベストでした」
NECフィールディング 経営システム統括部
エグゼクティブマネージャー
福井 桂太氏