概要
アパマンショップ
不動産賃貸仲介事業者のビジネスの源泉は不動産会社の店頭にうず高く積まれていた分厚いファイルの中ではなく、インターネット上にデジタルデータとして格納されている。不動産賃貸仲介大手の「アパマンショップ」ではUiPathを導入して、この不動産物件情報の収集と登録業務の自動化に着手。大きな成果を上げつつある。
APAMAN株式会社の子会社であるApaman Network株式会社は、事業会社として不動産賃貸仲介店「アパマンショップ」を運営し、フランチャイズ方式の店舗を含めて、全国に約1140店舗を展開している。
抜群の知名度を誇る同社だが、競争の激しい不動産業界にあって、日々業務改善に取り組んでいる。そんな同社が注目したのが、顧客に紹介する賃貸物件情報の収集と登録業務の効率化だった。
不動産業界では各事業者が保有する物件情報を相互に紹介するのが一般的だが、そのデータの多くは、事業者向けのB2Bサイトに登録されている。アパマンショップでは、店舗の担当者が担当エリアにある物件の空室情報を、不動産情報管理会社のサイトで探し出し、テキストや画像を自社の基幹システムに登録して、顧客に紹介する物件情報として活用してきた。
しかし、この空室情報の収集と登録には多くの時間がかかっていた。「1つの物件を登録するのに、15分から20分を要しました。担当エリアの物件情報を毎日30物件を登録するとして、店舗当たり8時間程度かかる仕事を4、5名で振り分けて行っていました。一人当たり1時間から2時間はその作業に時間を割いていたことになります」とシステム本部副本部長の湯浅裕希氏は語る。
全国で見れば計算上1万時間もの時間がこの作業に費やされていたことになる。「営業面を考えると、そこに費やしていた時間は、店頭でお客様に対応するとか、お客様をご案内するというように「お客様に向きあう」時間を最大化してもらいたい。そのためにどう作業を効率化するかは大きな課題でした」(湯浅氏)。
さらに重くのしかかってきたのが、働き方改革による労働時間の削減という大命題だ。物件情報を探して登録するという作業は、店舗で接客している間には行えない。どうしても店舗の営業時間外の時間を使うことになり、それが残業を発生させる原因にもなる。従来から「働きやすさ」を追及している同社にとっては、この作業の効率化は避けては通れない問題だった。
「ロボットを使うという発想は漠然と持っていました。ただ、人型ロボットのような接客ロボットで営業を代行させるというより、今やっているルーチンワークにロボットを適用する方が効果は大きいのではないかと考えていました」と湯浅氏は語る。2017年5月頃のことだ。
同社にはグループ企業に、ITベンダーの株式会社システムソフトがあった。早速、湯浅氏が担当者に、ルーチンワークにロボットを使う方法を相談ところ、紹介されたのがUiPathだった。システムソフトはUiPathのパートナー企業でもあり、UiPathであれば湯浅氏の要望に対応できると判断したのである。
「他のRPAベンダーからも情報を収集し、比較表を作ったり、トライアルするなどして検討しましたが、やはりやりたいことができるのはUiPathだと判断しました。決め手になったのは、正確性です。サイトの情報から家賃を認識する機能が他とは違いました」と湯浅氏は話す。
システムソフトが同社の基幹システムである「Apamanshop Operation System(AOS)」の運営も行なっていることも大きな要因だった。収集して得られた物件のデータを登録する先は基幹システムである。湯浅氏は「システムソフト内で全てが完結するということも安心材料でした」と話す。
2017年9月にはUiPathの導入を決め、すぐにロボットの開発に着手した。1月から3月の繁忙期に間に合わせたい、というのが急いだ理由だが、システムソフトではすでにUiPathを導入していてノウハウもあったので、開発はスムーズに進み、12月には本格的に導入された。
同社が開発したロボットに求めたのは、各店舗が持っているIDで物件情報サイトにログインし、社員の代わりに担当エリアの物件情報を見つけ、それを自社の基幹サイトの情報と付き合わせ、登録されていなければ、基幹システムに情報を登録するという機能だ。事業者向けのB2Bサイトが基本だが、不動産管理会社の物件情報サイトに直接アクセスして、情報を収集することもある。
使い勝手を考慮してロボットはサイトごとに用意することにした。1サイト1ロボット体制で、全国にあまたある不動産管理会社から集まって来た物件情報から空室情報を毎日探すことになる。各社ごとに何百件も物件を管理しているだけに、対象となるデータ量は膨大になり、サイトごとにロボットを用意した方が個別の状況に対応しやすいと考えた。
「開発で苦労したのは、イレギュラーな情報にどう対応するかです。それを決めるところが大変でした。実際にロボットを動かして見て、とってきた情報を店長たちに見てもらって、使えるデータかどうかを判断してもらって改善するといったことを繰り返し行いました」(湯浅氏)。
実際には、全てを自動化することはせず、一旦仮登録した物件情報をCSV形式でメールで各店舗に配信し、目視による確認を経て物件番号を入れて本登録するというフローを作った。湯浅氏は「元の物件情報が間違っていることもありますし、補正が必要だったり、PRコメントを追加するといったことも手作業ですることにしました」と説明する。
ある程度手応えを掴んだところで、1月から数店の店舗で実験的に利用を開始した。ここで大きな成果を上げることに成功する。新たに開設する“新店”にロボットを活用したところ、人手の3倍から4倍の効率で物件情報を登録することができた。
「もともと物件情報を持っていない新店にとっての大きな課題はいかに早く周辺の物件情報を揃えられるかです。それがなければ商売になりません。ロボットで、一気に揃えることができ、これまでの3分の1の期間で準備できたことは、大きな収穫でした」(湯浅氏)。
すでにトライアル期間を経て、本格的な活用が始まっているが、各店舗からは概ね好評だ。「朝出社すると、お客様に紹介できる物件が増えているのですから当然です。目視と一部手作業が必要ですが、すでに準備はできているのですから、大幅に作業が効率化されています」と湯浅氏は評価する。
システム本部副本部長 湯浅 裕希氏
しかし、まだまだ課題は残っている。その一つが基幹システムとの連動である。現在、ロボットは朝7時から深夜0時までしか基幹システムにアクセスできない。湯浅氏は「今後はロボットと基幹システムを直接連携させて、仕組みとしていつでも使えるようにしていきます。ただ、サーバ側に負担をかけ過ぎると、不正アクセスと判断されて遮断されてしまいます。その辺りをどう考慮するのかが、これからの課題です」と話す。
また、当初は、直営店舗だけがロボットの導入対象になっていたが、現在はフランチャイズ加盟店にも拡大中だ。そうなると営業対象エリアも広がるために、情報収集の対象となるエリアも拡大する。それにどう対応するのかも課題だ。
その対策の一つとしても必要になるのが、FAXへの対応である。地場の不動産管理会社の中には、自社の不動産情報サイトを持たずに、B2Bサイトも活用せず、依然としてFAXで情報を提供しているところもある。現在は、FAXで受け取った情報は従来通り手作業で取り込んでいる。
「FAX情報は様式も項目もバラバラなだけに、これをどう自動化するかは今後の課題です。OCRやAIなど、使えるものは使っていくつもりでトライアルを進めています。当社が運営するfabbitというコワーキングスペースに入居しているスタートアップ企業との協業も検討中です」(湯浅氏)。
RPAの活用はそれだけではない。今後は他の業務のルーチンワークへの適用も検討中だ。「経理部や総務部など管理部門を中心に、人手でやらなくても良いことは意外とあるはずです。各部署にアンケートをとって、効率化したい業務を洗い出して検討していく予定です」と湯浅氏は語る。
IT化が遅れていると言われている不動産業界だが、同社ではすでに店頭にタブレットを配備し、顧客が直接契約書に入力してもらうことで、契約情報をその場でデータ化するなど、積極的なIT活用に取り組んでいる。UiPathの導入が同社のこうしたIT戦略を加速させ、付加価値の向上に貢献していくことは間違いない。