概要
アサヒプロマネジメント株式会社
https://www.asahigroup-holdings.com/
所在地:東京都墨田区吾妻橋1-23-1
アサヒプロマネジメント株式会社は、アサヒグループの管理・間接部門である経理、財務、総務、人事、IT等の機能を担い、効率性・生産性・専門性の視点からグループの成長を支援していく会社である。
酒類、飲料、食品など様々な事業領域を抱えるアサヒグループでは、他社との競争が激化するその事業環境の厳しさから労働生産性の向上とビジネスの成長を実現することが経営課題となっている。アサヒグループの管理・間接業務全般を担うアサヒプロマネジメント株式会社は、先進技術の導入を推進するデジタル支援業務の一環でグループ横断的にRPAの導入を進めた。ここでは、RPA導入プロジェクトの背景、導入効果を紹介する。
ビール業界などを中心に競争が激化する食品・飲料品ビジネス。アサヒグループにおいても、創造性に富んだ新商品の創出、膨大な社内外のデータを基にした効果的な戦略の策定が経営課題となっている。同グループでは、従来からクリエイティブな作業と位置づけられる「コア業務」、そしてデータ加工といった定型的な作業を「ノン・コア業務」と定義し、業務プロセス改善に際してノン・コア作業の極少化を模索してきた。今回、同グループ全体の管理・間接業務を担うアサヒプロマネジメント株式会社では、グループ内の業務プロセスを最適化するBPRと共にノン・コア業務の自動化による業務効率化のプロジェクトを発足した。
アサヒプロマネジメント株式会社 業務システム部 業務推進グループ デジタル支援チーム チームリーダー 関根 義信 氏
同グループで課題となっていたノン・コア業務の代表例が、日々大量に収集されるデータの集計業務である。メーカー特有の事情として、生産・販売・物流を中心に日次・月次問わず大量のデータを扱うという特徴があるという。様々な部門において課題は散見されていたが、例えば「日々のトレースのために、数時間かけて各種データの集計・資料作成をしている社員が各所に存在する」という課題があったとアサヒプロマネジメント株式会社 業務システム部 業務推進グループ デジタル支援チーム チームリーダーの関根義信氏は語る。 さらに、経営層の視点では、経営ニーズのスピードに対して現場でのデータダウンロードから集計、分析、経営への提示までにかかる時間のギャップがマネジメントのリスクとして懸念されていた。
そこで経営リスクへの対応も含め、現場では新商品の創出が最重要業務であるマーケティング部門や、より顧客の声や販売状況の理解を深め、事業を伸ばすコア業務に多くの時間を割くべき営業部門の業務を改善するべく、RPAの導入に活路を見出す事となった。数多くの部門に共通する前述の課題があったこともあり、2018年4月にプロジェクトを立ち上げたあとも現場の期待は非常に大きく、その後の社内説明会のあとはRPA適用を希望する業務が社内から200件以上も申請され、「デジタル支援部門としても予想以上の反響だった」と業務推進グループ デジタル支援チーム 主任の坂本高啓氏は振り返る。
アサヒプロマネジメント株式会社 業務システム部 業務推進グループ デジタル支援チーム 主任 坂本 高啓 氏
製品の選定にあたっては4社に絞り込んだ上で、全世界的に導入実績が豊富である点やライセンス体系がシンプルでコストの見通しが立てやすいメリットからUiPathを導入したという。また、「後々進める全社展開を見据えて、様々な部門・業務に適用することを考えると開発部品が多い事が役立った」と開発推進を担当したアサヒビジネスソリューションズ株式会社ソリューション本部開発統括部の内山瑠以氏は指摘する。内山氏によると、どのように業務の自動化を進めるか考えるにあたって、既に準備されている幅広い開発部品を参考にできる点は効果的だったという。同グループ内で幅広く展開する際には自社に最適化した部品の開発も進めることになるが、その際にゼロから開発することなく既存の部品を改変することで開発時間の短縮へと繋がっている。
前述の通り、膨大なデータのダウンロードや解析業務が様々な部門に存在することもあり、当初は個々の業務をAttended Robotsで自動化し、その後更にサーバ型ならではの常時稼働という特性を活かした夜間作業によるさらなる効率化を実現するためUnattended Robotsに移行したという。夜間作業などの効果として、「朝出社したらアウトプットができあがっているのは非常に大きい」と坂本氏は効果を実感したという。
また、追加のライセンス料と費用対効果の試算から、当初はロボットが100台超えた時点での導入を検討していたが実際には「50台を超えると現場としては管理性の煩雑さが顕著になり始めたため、当初よりOrchestratorの導入を早めた。さらに、Orchestratorの導入により、ロボットの一元管理及び、自動実行が可能となり、運用業務が効率化された」(内山氏)という。
アサヒビジネスソリューションズ株式会社 ソリューション本部 開発統括部 マネージャー 内山 瑠以 氏
プロジェクトを取りまとめる坂本氏によると削減効果は、2019年5月時点で年間26,100時間にのぼると試算されている。定量的にも大きな成果であると見るが、関根氏によると定量的な効果だけでなく、「同じ削減時間でも業務負荷の高い時期の効果が極めて貴重」とのことだ。管理部門の月初・月末などが好例だが、特定の時期に数多くの業務が集中するといったサイクルは様々な業務において発生する。その多忙な時期において業務時間を削減し、高付加価値の業務に時間を充当できる点は、「わずか1時間でも業務改善の効果は絶大だという気づきを得た」と関根氏は指摘する。
他にも、RPAの導入可否の判定の要素として、自動化で解決するべき課題なのか、システム改修により解決するべきものかという議論も時間をかけて分析、決定したという。「システム変更で対応すると結論づけた案件も幾つかあったが、大部分はRPAによる自動化が最適という判断となった」と当時を振り返り坂本氏は説明した。また、RPA導入にあたっては、「最初が肝心」とRPAのルール作りについても強調した。ルール作りの柱の一つとなったのが各部門から申請される自動化対象業務の選定と優先順位の基準である。事務局では、申請された業務の内容をしっかり分析し、優先順位を三段階に分類し、高いものの中でもまずは自動化作業の分量が少なく効果が出やすいものを優先的に実施した。選定基準のひとつに、「例えば、定型化されていない業務は、RPA化に向かないため、申請があっても対象外とする」といった明確な基準を設けたという。あらかじめ基準を設けることで、RPA化の業務選定、ロボット開発のスピードを上げることができた。
アサヒグループでは既に多くのロボットが稼働しているが、今後は更にその適用範囲を広げていきたい構えだ。関根氏は「OCR機能を活用し、文字の読み取り作業の自動化も進めたい」と話す。先進技術を取り入れている同社であっても、例えば物流系の業務においては「手書きの伝票が取り扱われている現場も一部存在する」という。従来のシステムで対処しにくいとされてきたこういった業務の効率化も今後の自動化適用範囲に入ってくると期待されている。
また、自社でRPAの開発ノウハウも蓄積し、部品の標準化・共通化をも更に進めて開発そのものの効率化を一層図るべく検討している。自社グループ内で展開しやすい、社内に最適な部品を開発することにより、グループ内の各事業会社・事業部門への展開を行う予定である。
更にその先を見据えた計画としては、「各部門で人一人が余る状態に持っていき、その人員を今までやっていなかったような付加価値の高い業務に割り振る」のが当面の目標だという。通常、徐々に自動化が進むと各担当者の業務の一部が削減され、部門全体で見ると虫食い状態のような形になるという。その状態から業務の再分配、最適化を行うことによって一人が担当業務から完全に開放され、残りの人員がフル稼働の状態にする。将来的な労働人口減少の時代の中でも業界をリードするべく、アサヒグループの飛躍を支えるRPA活用はさらに進むと期待されている。