ヒューマンエラーの心配もなくなり、精神的負担も軽減
各人が自らの業務を見直そうとする姿勢の醸成
クラウド版Orchestratorにより、リモートワーク環境下でもロボットを制御
概要
株式会社ファミリーマート
本社 : 東京都港区芝浦3-1-21
1973年に3大コンビニエンスストアチェーンでは唯一、日本発祥によるコンビニエンスストアを開店。現在、日本全国に約16,700店舗、海外に8,000店舗以上を展開しており、地域社会と密着したビジネスを通じて、顧客一人ひとりに寄り添った新たな価値創出に取り組み、人々の日々の生活を「便利さ」で支えている。
国内に約16,700のコンビニエンスストアを展開するファミリーマートでは、慢性化する人手不足をはじめとするビジネス上の課題を解消するために、業務改革を推進。そうした中、同社が改革を加速させるためのドライバとして位置づけているのがUiPathプラットフォームによる業務の自動化だ。50以上のロボットが稼働し、さらにはAutomation Cloud上のクラウド版 Orchestratorによる一層の統制強化、業務効率化を進める。広範な定型業務の自動化により、従業員が「創造的業務」に注力していける環境の整備を進めている。
「あなたと、コンビに、ファミリーマート」のコーポレートメッセージのもと、全国津々浦々にコンビニエンスストアを展開するファミリーマート。2018年11月に「ファミリーマート」と「サークルK・サンクス」のブランド統合を完了し、国内約16,700の店舗基盤を整えた。また2019年7月には、独自のスマートフォンアプリ「ファミペイ」のサービスを開始するなど、金融をはじめ広告・マーケティング領域などでの新規事業を積極的に展開し、デジタル対応を軸とした店舗運営の次世代化に向けた挑戦を続けている。
他業種同様、コンビニエンスストア業界においても、わが国社会における就労人口の減少を背景とした人手不足が切実な課題として浮上している。同社では店舗、本部のそれぞれにおいて、働き方改革や業務改革を推進することで問題の解消に努めている。
例えば、店舗にセルフレジ等の仕組みを導入して省人化を図ったり、社内ではGoogle Workspace(旧:G Suite)といったコミュニケーション/コラボレーション基盤を整備して、情報共有のさらなる効率化を目指すといった施策を進めてきた。
そうした中、同社ではIT技術の活用による業務改革の一環として、RPA導入に向けた検討を2018年6月に開始した。「RPAの活用をデジタルトランスフォーメーション(DX)加速のためのドライバの1つと位置づけ、BPR(Business Process Re-engineering)を推進して業務品質や生産性の向上を図り、従業員が人でしか行えない『創造的業務』に注力していける環境の実現を、改革の目指すべき姿としています」とファミリーマートの大屋敦氏は語る。
RPA導入の検討を開始したファミリーマートでは、早速、具体的な製品の選定に着手。市場に投入されているさまざまな製品の比較を行った結果、同社が選定したのがUiPathだった。「世界中で広く利用されているUiPathには大きな安心感があったことに加え、ロボット開発も容易で、さらにはスモールスタートで拡張していける点も大きな魅力でした」とファミリーマートの佐々木剛氏は選定のポイントを説明する。さらに、完全無料のオンライン学習サービスある「UiPathアカデミー」など学習環境が充実していること、すでに述べたGoogle Workspaceなど同社が導入している社内システムとも高い連携性を備えていたことなどもその選定を後押ししたという。
UiPathの導入を決めた同社では、その直後から、まずUiPathアカデミーを活用してロボット開発にかかわるスキルの獲得に努めた。それと並行して、社内のロボット化対象案件の洗い出しにも着手し、取り組みの優先度の検討も進めた。その後、PoC(Proof of Concept)として特定の部門を対象にロボット開発に取り組んで効果検証を実施。「検証を通して十分な効果が確認され、その成果のほどを聞きつけた他部門からもぜひ自分たちのところでもRPAを活用したいという声が多く寄せられるようになったことを受けて、導入後半年を経た頃から、適用対象部門を全社に拡大する運びとなりました」とファミリーマートの岩田大輝氏は言う。
以上のような経緯で、RPAの活用を本格化させたファミリーマートだが、RPA化のプロセスにおいては現場部門との協働を重視する。具体的には、現場部門からの自動化案件の要望をもとに対象業務を確定させたのち、システム統括部のRPAチームから対象業務に携わる人員に業務内容をヒアリングしてフローを整理の上、開発を進める。自動化ワークフロー完成後に現場部門と一緒に動作確認を行い、本番環境での稼働確認後にリリースされることとなる。
「ロボット開発については、やはり当社のビジネスや業務、手続きなどに精通した当社の従業員が携わることが重要だと考え、内製にこだわって進めていました。そうした観点では、オンラインでの学習によって十分に実践的スキルが身につくUiPathアカデミーが開発人材の育成面で大いに貢献してくれています」とファミリーマートの長江紳司氏は評価する。
既述のようなプロセスに則って、ファミリーマートで稼働しているロボットは50以上を数える。特に同社では、多くの業務に標準コミュニケーション/コラボレーションツールとして採用するGoogle Workspaceを活用していることもあって、UiPathのマーケットプレイスであるUiPath Connect上で提供されるGoogle Workspace と連携するための共通部品により、Google Workspaceの各種アプリケーションを使った多様な作業の自動化を実現している。
加えて、主要な自動化適用対象業務とされているのが、定型的な分析や配信にかかわる業務だ。「当社では全国に約16,700店という規模の店舗網を展開していますが、基幹システムなどからダウンロードしたデータを集計、分析、加工して、各店舗やその支援にあたるスーパーバイザーに届けるという業務が多く、それら業務の自動化もとりわけ大きな成果をもたらしています」とファミリーマートの橋本光雄氏は紹介する。
「例えば、実際の売上分析を行う場合は、条件に合わせて対象店舗リストの抽出等の前準備が必要となるわけですが、これまではその作業を担当者がほぼ1日をかけて行っているという状況でした。そうした作業がRPA化によって1時間ほどで完了するようになり、もちろん作業自体はロボットがやっているので、担当者はその間も別の仕事ができるようになりました」と橋本氏は語る。
同様のかたちで、これまで多大な時間を要していた各部門の定型業務が順次RPAにより自動化されており、同社ではそれによる作業量の削減を見込んでいる。もちろん、繰り返し作業を行う従業員の心身の負担も大きく軽減され、人手による作業では避けられないヒューマンエラーの懸念もなくなり、作業品質も向上。「特に、RPA化が動機となって各人が自らの業務を見直そうとする姿勢が顕著となってきており、業務改革に向けた意識が確実に醸成されてきていることも大きな成果として実感できています」と大屋氏は強調する。
RPAは単に業務を自動化するものではなく、業務改革そのものを支えるツール。RPA化の推進が全社的な業務プロセス改革に向けた意識向上に確実につながっています。
株式会社ファミリーマートシステム本部システム統括部システム統括グループマネジャー 大屋 敦 氏
一方、ファミリーマートではRPA化の取り組みが本格化する中で、いくつかの課題も浮上してきているという。1つは、増加を続けるロボットをいかに適切に管理していくかという問題である。同社では社内ITのクラウド化が進んでいた背景や、コロナ禍におけるリモートワーク環境下でもロボットを制御する必要性から、UiPathが提供するクラウドサービス「UiPath Automation Cloud」上で動作するクラウド版の「UiPath Orchestrator」をすでに導入しており、その実運用に向けた準備を進めているところだ。「今後、UiPath Orchestratorでロボットの資産管理を行って内部統制を強化していくことは監査対応の観点からも重要。そのほかにも、UiPath Orchestratorのスケジューリング機能を活用して、従業員の出社前にロボットを起動して作業の下準備を自動で進めておくなど、なお一層の業務効率化に役立てていけるものと考えています」と大屋氏は語る。
そのほか同社では、デスクトップ上で人により動作させるAttendedロボットに加え、バックグラウンドで独立して動作するUnattendedロボットの導入も進めており、それにより大量で長時間に及ぶプロセスも処理が可能となる。
さらに、開発の効率化や開発プロセスの整理、セキュリティ対策など、ロボット開発にかかわるガバナンス強化に向けたガイドラインの策定も進めており、こちらは2020年度末には完成の見込みだという。また、近日中にAI-OCRを用いた請求書処理等の業務の自動化の実現も見込む。
今後もファミリーマートでは、UiPathを活用したRPA化の取り組みを強化していくことで、そのゴールとして見据える、従業員が創造的業務に注力していける環境のさらなる整備に向けて邁進していくことになる。
(文中の所属・役職等は2020年11月のものです)