1カ月あたり1000件の発注申請のチェックを自動化
4カ月という限られた期間でPoCを実施し十分な効果を確認
自動化により申請のチェックに要する時間を17%削減
概要
KDDI株式会社
本社 : 東京都千代田区飯田橋3-10-10 ガーデンエアタワー
業種 : 通信
2000年に第二電電(DDI)、ケイディディ(KDD)、日本移動通信(IDO)の合併により設立。一般消費者向けの「au」ブランドでは、通信とライフデザインの融合による新たな体験価値の提案を目指しており、一方、法人向けの「KDDI」ブランドにおいては、各種通信サービスを中心に、5GやIoTに代表される先端技術を活用したビジネス価値の提供に取り組んでいる。
携帯電話サービスをはじめ幅広い通信サービスの提供で知られるKDDIでは、金融関連事業や電力事業など広範な分野にビジネスが拡大する中で、購買対象となる商材の範囲や件数が拡大。発注業務に携わる人員の業務負荷が高まっていた。そこで、同社 購買本部ではUiPathを導入。AI-OCRとRPAの組み合わせにより、発注申請内容のチェックにかかわる業務の一部を自動化。現場作業の生産性向上を実現している。
発足以来、豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献することを企業理念に掲げ、事業を展開してきたKDDI。今まさに5GやIoT、AI・ビッグデータなどの技術の進展により、社会のデジタル化が本格化する中で、その存在感がますます高まっている。「au」ブランドによる携帯電話等の移動体通信や光ファイバーサービスといった通信事業に加え、今日では、銀行や電子決済などの金融関連事業、あるいは音楽配信や一般家庭向け電力事業といった領域にまで同社のビジネスは大きな広がりを見せている。
そうしたKDDIにあって、社内で利用する設備や物品、あるいは同社が顧客にサービスを提供するうえで必要な商材や業務委託サービスなどの調達全般を司っているのが同社購買本部だ。「購買業務自体は社内の発注システムを利用しており、システムへのデータの投入や伝票のチェックなどは人手で実施しています。特に近年、当社事業の拡大が加速する中で、購買の対象となる商材の範囲が広がる一方、行うべき発注の件数も増大の一途をたどっています。しかしながら、現場で作業にあたる人員の数を増やせるわけではなく、いやがうえにも各担当者の業務負荷が高まっているという状況です」とKDDIの小久保暁洋氏は語る。
こうした課題の解消に向けた検討を進めるKDDIが着目したのがRPAだった。具体的には、例えば価格交渉を伴う発注のような、人でなければ対応できない部分を除いた定型的な業務をロボットで自動化することで、多大な省力化のメリットが得られると考えたわけだ。その検討の結果、発注業務に適用するRPAソリューションとして同社が導入を決めたのがUiPathである。
KDDIはかねてより、社内のさまざまな部門においていくつかのRPAツールを導入して現場での利用に供してきたという経緯があり、UiPathもその1つだった。「これまでは、例えばExcelのデータを集約するなど、RPAを適用している業務は比較的シンプルであるのに対し、今回、適用しようとしている発注作業はビジネス上、クリティカルな業務でした。加えて自動化の対象となる作業にもかなり複雑なところがあって、そうしたケースでも大きな威力を発揮得るのは、拡張性の高いUiPathだろうと判断したわけです」と語るのはKDDIの松本圭嗣氏である。
特に今回のRPAの適用に関してKDDI購買本部では、商材を発注する業者からPDFで提出される見積書をAI-OCRを利用してデータ化し、その前後の処理をRPAで自動化するという仕組みの実現を思い描いていた。「AI-OCRのエンジンについては、あるクラウド型サービスの利用を念頭に置いていました。そのサービスとAPI連携が可能なのもUiPathだけであり、さらには提供するRPAベンダーの提案内容、あるいはサポート体制なども含めて詳細に吟味したうえで、総合的な見地からUiPathの導入を決めました」とKDDIの濱口諒平氏は説明する。
KDDI購買本部では、UiPathの本格導入にかかわる最終決断を下すのに先立って、2019年12月~2020年3月の4カ月の間、PoC(Proof of Concept)を実施している。検証対象には、社内に数多ある購買プロセスの中でも、発注業務フローが定型化された法人向けのソリューション案件にかかわる商材発注処理を選んだ。PoCの実施にあたって同社では、UiPathの「プロフェッショナルサービス」を活用することにした。定型化されたプロセスとはいえ、今回はAI-OCRとの連携などもあり、技術的にも高いレベルでのコンサルティングが必須だったわけだ。
「PoCに臨んだ当初はかなりラフな要件しか描けていませんでしたが、コミュニケーションを重ねる中でプロフェッショナルサービスの方々が我々の要件を的確に詳細化し、最適なかたちで自動化ワークフローへと実装していってくれました」と濱口氏は振り返る。例えば、インターネットを介したAI-OCRの処理を含む自動化ワークフローの開発など技術的に困難な課題に直面した場合でも、プロフェッショナルサービスの手厚いサポートにより着実に克服していくことができたという。
PoCの結果、UiPathが自社のニーズを十分に満たすものであると確認することができたKDDI。その後、2020年7月には商材発注処理にUiPathプラットフォームが導入され、本番運用が開始された。
RPAにより自動化された具体的な業務としては、社内各事業部から申請される購買依頼の内容を、発注先の業者が発行した見積書の内容と突き合わせてチェックを行ったのち、発注システムに投入して決済権者の承認に回すという一連の作業である。このプロセスをAI-OCRによって見積書のPDFイメージから必要項目をデータとして抽出し、RPAによってそれを購買依頼のデータと突合するというかたちで自動化されている。
見積書のフォーマットは取引先ごとに異なり、それらフォーマットに合わせてAI-OCRの設定を行う必要があるため、本番運用開始当初は、取引先を3社に絞ってスタート。「その後、徐々にRPAで処理対象とする取引先を拡大しており、現在では月あたり1000件前後の処理をRPAでこなしています。その結果、本番運用後2カ月を経た2020年9月末時点で、ソリューション事業に関わる発注業務の作業時間が月当たり17%程度の削減効果が得られています」と松本氏は語る。
こうしたRPAによる自動化の効果は、発注申請のチェックを行う現場の人的負荷の軽減だけにとどまらず、申請の承認を行う側にも及んでいるという。これについて濱口氏は「承認側に届いた申請には誰がチェックを行ったのかが示されるようになっていますが、チェックの実施をロボットが担当した場合にはそこにロボットの名前が入ります。つまり承認者にしてみれば、ロボットでチェックが行われていれば、ヒューマンエラーの懸念もないため、確認作業をある程度メリハリをもって行えるというわけです」と説明する。
ロボットで自動化できる業務もあれば、人でなければこなせない業務もある。重要なのは、両者の業務をいかに適切に融合させ、人とロボットによる効果的な協業を実現していくこと。
KDDI株式会社購買本部PI推進部オペレーショングループ課長補佐 小久保 暁洋 氏
直近の目標としては、2020年度末までには、ソリューション事業に関わる発注業務の月当たりの作業時間の削減効果を25%にまで高めていきたいとしており、そこで生じた余剰時間をどういう業務に投入していくかについて目下検討中であるという。
一方、RPAの適用業務を検討する際には、各業務のプロセスを可視化していくことが前提となる。「そうした中で、これまでブラックボックス状態であった業務の詳細が把握可能になり、また必要に応じて標準化を進めていくといったことも可能になります。最終的に自動化できるか否かは別として、そうした可視化や標準化の取り組みは、業務改革の推進において、きわめて有意義なものであると捉えています」と小久保氏は強調する。そうした意味でKDDIでは、省力化や業務効率化のツールとしてのみならず、まさに業務改革を牽引するソリューションとして、UiPathのさらなる活用に取り組んでいくことになる。