企画からテスト運用まで約2カ月のスピード立ち上げ
AI自動化の目標精度は現実的な水準からスタート
2人から「1人+AI」体制へ人員半減、作業時間も短縮
概要
株式会社mediba
所在地:〒106-0032 東京都港区六本木3-2-1 住友不動産六本木グランドタワー39F
KDDIグループの一員として、auスマートパスを始め、au関連サービスで展開されるモバイルメディアの企画・開発・運用、およびインターネット広告などにかかわるBPOサービスを提供。国内外にて幅広い分野でサービスを展開している。
auユーザーに向けた情報提供・サポートサイト「au Webポータル」を運営するmediba。同サイトでは、検索エンジンに入力された上位キーワードのランキング情報を1時間ごとに更新し、トップページに表示している。表示にあたっては、当該ワードが公序良俗に反するものではないかなど、その適正性のチェックを人手により24時間365日体制で実施しており、それに伴う心理的負荷が課題だった。そこで、同社はチェック業務をAI(人工知能)に代替させる取り組みに着手、UiPath AI Centerを導入した。AIの自動フィルタリングによって心理的負荷が軽減されただけでなく、チェック業務の時間も短縮された。
KDDIグループの一員として、auブランドのモバイルメディアの企画・開発・運用、およびインターネット広告などにかかわるBPOサービスを提供しているmediba。2011年8月には沖縄拠点(現seasorizeカンパニー)を設置。同拠点では、auの各種サービスの監視や障害対応、問い合わせの受付など多岐にわたる業務を請け負っており、KDDIがauユーザーに向けて提供する「au Webポータル」の運営も担う。
au Webポータルは、1日あたり700万以上のPVを数える人気サイトだ。天気情報や地図情報、また時事やスポーツ、芸能にわたる最新ニュースをリアルタイムに配信する。トップページでは、検索エンジンに入力された上位キーワードのランキング情報を1時間おきに更新して掲載している。このランキング情報の掲載にあたっては、検索履歴の上位キーワードの中でも公序良俗等の観点で問題ないかどうかを事前にチェックし、掲載の可否を適宜判断している。その作業のために、同社では2名×3チームの計6名の人員を同社の沖縄拠点に配置してきた。6名が3交代制により24時間365日、1時間に1度の情報更新作業を行う体制である。
しかし、こうした体制を維持し続けることのビジネス上の負担は少なくなかった。「キーワードがNGかどうかのチェックには相応のノウハウが必要で熟練が求められるため、適宜代替の要員を充てるのも容易ではありません。沖縄という土地柄からも、台風シーズンの出勤に危険が伴うという苦労もありました」と、medibaの佐藤崇氏は語る。同社seasorizeカンパニーで現場の運用にあたる金城香澄氏も、「不適切な情報を掲載してしまった場合の影響は大きいため、間違えてはならないという心理的プレッシャーを常に感じていました」と、心情を明かす。
こうした課題の解消に向け、medibaが検討に着手したのが、キーワードのチェック業務をAIに代行させることで自動化を図るというアプローチだった。「折しも、社内でAIなどの先進技術導入の機運が高まってきており、チャットボットの実用化や、RPAの適用による社内業務の自動化も進んでいたのです」と佐藤氏は言う。
AIツールの選定にあたりmedibaが採用を決めたのが「UiPath AI Center(以下「AICenter」)」だった。その理由をmedibaの伊藤さとみ氏はこう説明する。「まず、2018年10月にRPAを導入する中で数社の製品を 実際 に 稼働 さ せ て 比較 し た 結果、UiPathのRPA製品を高く信頼し、2020年UiPathに全面切り替えをした背景がありました。ただ、AI Center導入の敷居の低さには目を見張りました。AIの深い知見なしに活用できること、訓練済みのモデルがあらかじめ用意されておりすぐに運用を開始できることは、私たちにとって大きなメリットでした。UiPath側のサポートも期待以上でした」。さらに、「UiPath Action Center」を使って、単一の画面上で入力から結果出力までをワンストップで完結させられる点も、重要な評価ポイントとなった。
medibaがAI Centerの導入を決定したのが2021年3月のこと。その直後の同年5月には導入作業を開始し、2021年7月からは早くも本番業務に即したテスト運用が始まっている。導入決定から、わずか2カ月でAIの運用を開始できたことになる。
AI活用は初めから対象業務のすべてをAIに代替させようとせず、まずは50%など到達可能な目標を定めること。無理のないかたちでスタートし、徐々にAIの精度を上げていくのがポイントです。
株式会社 mediba テクノロジーセンター セキュリティUNIT Manager 兼 BPM UNIT Manager 佐藤 崇 氏
AI Centerの適用によってmedibaが自動化を目指したチェック業務の具体的な流れは次の通りだ。検索エンジン側の履歴データをベースにランキング上位として抽出された各キーワードをGoogle検索にかけてそのページの内容を確認する。「例えばそれが、事件や事故にかかわる個人名であるかどうか、また画像検索によって肌色の露出が多いかなどをチェックし、NGと判断したキーワードは掲載から排除することになります」と説明するのはseasorizeカンパニーの宮城勝也氏だ。同社では、こうした作業をかねてより常時2名体制で実施。1つのキーワードに対し、2名の担当者がダブルチェックする体制で可否判定を行い、万全を期してきた。
実際のAI導入後の運用では、1名分の作業をAI Centerに置き換えて当該業務を遂行させることにした。具体的なワークフローは図1の通りだ。まずロボットがGoogle検索から画像を含む情報を自動取得し、それに対しAIが判定を行い、さらに人が1名で最終判断するという協働体制を取っている。この結果、作業時間が短縮しただけでなく、同時にかかわる人員を2名から1名へと半減できる見通しが立った。人が目検チェックによりNGと判断したデータはAIの精度を高めるための再学習に生かし、さらなる効率向上のサイクルを回していく(チェック画面のイメージは図2)。
AIの活用をスムーズに進められた要因について、佐藤氏は「AIに対して50~60%程度の精度を目指すスタンスで臨みました。最初から100%の精度を望むような高い目標設定は円滑な導入の障害になり、現場でむしろ足かせになりかねません」と説明する。まずは一定の成果を上げ、運用の中で徐々に精度の向上を図るというアプローチである。
50~60%という精度は、現場でも満足できるレベルと映っている。seasorizeカンパニーの辻上弘人氏は「ダブルチェックの片方を安心してAIに任せることができ、十分な手応えを感じています」と話す。現行の6名体制を完全な3名体制に移行した後は、人的リソースをau Webポータルの価値向上の取り組みに投入し、競争力により磨きを掛けることができるはず、と佐藤氏は期待する。
使い勝手に対する現場の評価も高い。「Action Center上での操作はシンプルで視覚性にも分かりやすいです。1つの画面の中であらゆる作業が完結しますし、AIだからと言って頭を悩ませるような場面もありません」(金城氏)。
今後、medibaでは現在テスト的に行っている運用を速やかに本番移行し、すでに述べたような人員削減効果を享受していきたいとしている。「テスト運用の中でも、AIの学習による精度の向上は確実に進んでいます。チェック人員の削減はもちろん、ゆくゆくは人手の介在なく、AI Centerのみでチェック業務をこなしていけるような体制を目指していければと考えています」と、佐藤氏は大きな期待を寄せる。
他方、medibaではキーワードのチェック業務に限らず、seasorizeカンパニーが行うau Webポータル上の他コンテンツに関するチェック業務にも、AI Centerによる自動化を適用していきたいと考えている。「検討しているのが広告のチェックです。ポータルサイトに掲載する広告については、そこに記された文言が、例えば薬事法や景品表示法に抵触していないかを厳格にチェックして掲載の可否を判断しなければなりません。作業の負荷軽減を目指すうえでも AICenterがきわめて強力なツールになるはずです」と、佐藤氏は言葉に力を込める。
au Webポータルの運用局面に限らず、RPAとAI Centerを併用することで業務の一層の自動化を図るという検討も積極的に進めていきたいとしている。例えば、ExcelやWordを用いた従来作業において、またSaaSをより効率的に活用したい局面などにおいて、人の判断が求められる業務の自動化にAIの適用を検討していく。そうした中で、medibaのUiPathに対する期待がますます大きく膨らんでいるところだ。