概要
住信SBIネット銀行株式会社
所在地:東京都港区六本木1-6-1 泉ガーデンタワー18F
主な業種:金融業
住信SBIネット銀行株式会社は、三井住友信託銀行とSBIホールディングスを出資会社とするインターネット専業銀行です。これまで、住宅ローンにおけるAI審査モデルの導入や法人向けトランザクションレンディングの提供、国内銀行の中でいち早くAPIを開放しFinTech企業との連携を進めるなど、最先端のIT基盤を活用し、より便利で使いやすいサービスの提供をしています。今後もFinTech領域で確かな地歩を築くとともに、お客さま中心主義のもと、より良い商品・サービス提供に努めていきます。
インターネット専業銀行として住宅ローンに強みを持つ住信SBIネット銀行は、住宅ローンの審査関連業務に多大な人手作業が必要となっていたため、審査期間の短縮に課題を抱えていた。そこで審査関連業務をRPA化することで大きな業務時間効率化を達成した。ここでは、住信SBIネット銀行のRPAに対する取り組みを紹介する。
住信SBIネット銀行株式会社(以下、住信SBIネット銀行)は、三井住友信託銀行とSBIホールディングスを出資会社とするインターネット専業銀行である。2007年の開業以来、同社の柔軟な発想と迅速な意思決定に基づく「創造」と「変革」の姿勢は、新たな商品とサービスを市場に発信し、国内屈指のインターネット専業銀行として成長を続けている。また、住信SBIネット銀行はITと金融の融合によって誕生した会社であり、最先端のITを駆使した金融取引システムを安定的に提供することで顧客との強固な信頼関係を築き、揺るぎない事業基盤を確立することを経営理念としている。
住信SBIネット銀行の主力商品とも言える住宅ローンは、その金利の低さや付帯サービスの充実等から人気を呼んでおり、申込み件数が右肩上がりになる一方で審査関連の事務に多くの負荷がかかっていた。加えて2015年頃から商品ラインナップの拡充や業界での認知度の高まりから、予想を超える口座開設の申し込みが急増し、人員の増強が追いつかず事務の負荷に更に拍車がかかっていた。
その頃、とあるベンダーからRPAツールの紹介を受けたという。その当時の状況を業務改革部に所属し、事務業務の効率化、コスト削減を担当していた中村 文香氏(現:住宅ローン事業部 事務企画グループ 主任)は次のように語る。「あるベンダーからコールセンターや住宅ローンなどの事務を効率化するための提案を受けました。2016年当時、RPAという言葉が今ほど世に認知されていませんでしたが、『業務効率化に資するものならすぐにやってみよう』という経営陣の判断もあり、国内金融機関としては先駆け的にRPA導入を決めました。そこから当社のRPAへの取り組みが始まります」
住信SBIネット銀行 株式会社 住宅ローン事業部 事務企画グループ 主任 中村 文香 氏
住信SBIネット銀行がRPAを最初に導入したのは2016年9月のことである。その際、次の2つの理由からシステム部門ではなく、ユーザー部門主導でRPAの開発が行われた。1つ目は、「業務担当者自らが業務改善意識を持ってほしいこと」、2つ目は「ユーザー部門で自由な発想で使いこなして貰う方が社風に合うこと」である。その当時の状況について、中村氏は次のように語った。「比較的ITスキルを持った社員が中心となり、自らロボットを開発し始めました。そのときは効率的に進めていこうと、業務削減幅を指標にロボットを開発していきました。当然、そういった業務は人手で行っても時間がかかり、条件分岐なども煩雑でRPA化にも向いていません。その結果、ロボットの完成までたどり着けなかったり、途中でエラーが発生するなどの不具合が生じていました。またそのRPAツールが開発者向けであったこともあり、結果、全社的にRPA化への意欲が下がっていくことになりました」
その後しばらくはRPA導入が活性化しない時期が続いていたが、RPAを導入して成果を上げている企業も増えてきたこともあり、改めて経営陣より「RPAツールをよく比較検討してから改めてRPAを導入し、成果が上がる使い方を進めていこう」と、2017年8月にRPA推進室を立ち上げ、RPAの再導入を進めていくこととなった。「5社のRPAツールを比較検討し、RPAで効率化できるデータ入力やデータシステム更新との親和性を中心にツール選定を行ないました。また野良ロボットを発生させないためにロボットを集中管理できる統制機能と、ユーザー部門担当者でも簡単に製造・メンテナンスが出来るということも選定の重要なポイントでした」(中村氏)。 そして慎重に検討を重ねた結果、必要条件をすべて満たしトライアルで実際に使用したユーザー部門から「一番使い勝手が良い」と、高評価を得たUiPathが選ばれ2017年12月に本格導入に至ることとなった。
住信SBIネット銀行 株式会社 ファイナンス事業部 業務G 副主任 岡崎 悠花 氏
住信SBIネット銀行では、以前ユーザー部門だけでRPAを導入して失敗した経緯を踏まえ、ユーザー部門がロボット開発をしていくというスタンスは生かしつつ、新たにIT部門にサポート部隊を設けることで「RPA推進室がコミュニケーションハブとしてユーザー部門の課題やナレッジを集約し、システム知識があるIT部門と業務フローを理解しているユーザー部門とが協力しあってRPA導入を進めていく」という態勢強化を行っている。 現在、2度目のRPA本格導入がスタートして1年半以上が経とうとしているが、2019年9月17日現在でRPA化した業務は累計で260余り、94,830時間の業務削減効果を生み出している。内訳として削減効果がもっとも大きな業務は住宅ローン関連だ。RPA導入後、周辺業務が効率化されたことにより案件審査に注力する時間を捻出できたことで住宅ローンの審査期間を短縮することができた。また業務の変化について中村氏は次のように語る。「これまで手作業で行っていた入力業務をRPA化したことによる業務時間の削減だけでなく、BPR(業務見直し)によって無駄な業務を削減することができました。さらに、RPA化したことで『ロボットありきの業務』を新しく生み出すというBPRも実現しています。例えば、住宅ローン申込者の審査スピードを上げるために各担当者のベルトコンベアー式の業務にロボットを組み込み、審査業務まで自動化しようとしています」
導入効果は削減時間だけではない。RPAを実際に業務で活用しているファイナンス事業部 業務G 副主任の岡崎 悠花氏はRPA導入の定性効果について次のように語った。「月に一度繁忙日があり、その日のうちに複数のシステムに跨る入力作業や書類作成処理を終わらせなくてはいけないため、今までは派遣社員の方にも残業をお願いしてなんとか対応していました。これをRPA化することで残業の必要もなくなり、尚かつ金額などの値をロボットで自動入力している為、入力ミスもなく、確認する側の作業負荷も大幅に減らすことができました」
RPA導入により、大きな業務時間削減効果を上げている住信SBIネット銀行であるが、約1/3の部署にはまだRPAが導入されていない。そこでRPA推進室では行内におけるRPAへの理解をさらに深めてもらうために、社内イントラネットのサイト上にデモ動画など、RPA関連のコンテンツをアップロードして啓発活動を行っている。その他にもRPAをまだ使っていないユーザーも含め、ビールやピザを食べながらリラックスした雰囲気でRPAを学び、意見交換ができる場として社内イベント「BeerBash」なども開催。事例やノウハウを発表し、RPAに関する活発なコミュニケーションを生んでいる。
住信SBIネット銀行 株式会社 IT統括部RPA推進室 調査役 福地 慶子 氏
一方、既存のRPAに関して2019年10月1日付けでRPA推進室へ配属となったIT統括部RPA推進室 調査役 福地 慶子氏は次のように語った。「既に日常業務ではRPAが当たり前に使われています。特に事務作業で言えば、『RPAは安定稼働して当たり前』という状態にまで到達しています。この状態を今後も維持していくために、万が一トラブルが起きた際にはできるだけ早く復旧させ、業務に影響を及ぼさないようにする。これはRPA推進室として最低限必要なことだと考えています。この責任感は、RPAが浸透すればするほど増していくと考えています」
このように2度目のRPA導入から1年半が経過した住信SBIネット銀行は、今ではRPAが業務に欠かせない存在となっている。「エラーが発生した際には、自動復旧できるようなAI連携なども今後チャレンジしていきたい」と福地氏は語る。その背景には「最先端のITを駆使したイノベーションで金融を変えていく」というビジョンを持つ住信SBIネット銀行ならではの、「失敗することよりチャレンジしないことが恐れである」というポリシーからくるものであろう。その変革に対する姿勢は今後更なる進化を見せていくだろう。