「UiPathアカデミー」等の活用でメンバーが効果的にスキルを習得
時間やリソースの制約からこれまで取り組めなかった業務をRPAで実現
店舗を中心とする広範な業務の自動化で生産性が大幅に向上
概要
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス
本社 : 東京都目黒区青葉台2-19-10
総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」をはじめ、「ユニー」「長崎屋」などのブランドで、売り場面積100平方メートルから15,000平方メートルまでの多彩な店舗形態による小売流通事業を全国で多角的に展開。環境変化や価値観の多様化に迅速に対応しながら、「顧客最優先主義」に基づく店舗運営を推進し、さらなる企業価値向上に取り組んでいる。
幅広い消費者から高い支持を獲得している総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」をはじめ「ユニー」や「長崎屋」など、多彩な店舗形態による小売事業を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス。同社では、少子化高齢化による人手不足をにらみ、店舗業務などの効率化を念頭にいち早くRPAに着目。UiPathを導入して、ワークフロー開発未経験者も含むRPA専任チームを立ち上げた。各メンバーによる自発的なスキル習得をベースに、過去3年強の間に、店舗を中心とした現場業務のワークフロー化を推進。すでに約170にのぼる業務へのRPAの適用を実現し、グループの生産性向上に大きな役割を果たしている。
若年層を中心に顧客からの高い支持を得ている「ドン・キホーテ」をはじめ、「ユニー」「長崎屋」など多彩な店舗形態で小売流通事業を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)。環境変化や価値観の多様化に迅速に対応しながら、企業原理である「顧客最優先主義」に基づく店舗運営を推進し、さらなる企業価値向上に取り組んでいる。
同社は2017年4月ごろ、当時まだ国内では市場が創成期にあったRPAにいち早く着目した。「特に少子化による就労人口の減少が今後も続いくという状況を踏まえたとき、店舗をはじめとする現場業務における生産性向上は当社にとって切実なテーマであり、RPAこそそうした要請に応え得る技術として期待できました」とパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの山本速都氏は語る。
そこで同社では、当時、国内市場で認知度の高かった2社のRPAツールベンダーにアクセス。ライセンスを貸与してもらうかたちでトライアルを実施した。しかし、いずれの製品も同社のニーズを十分に満たし得るものとはいえなかった。
「例えばある製品は、特定業務ごとのワークフローをデスクトップ上で1つひとつ起動していくといったタイプのもので、ロボットがデジタルレイバーとして、オーケストレーションによりさまざまな業務を自動実行していくという、われわれがRPAに対して抱いていたイメージとはだいぶ隔たりがありました」と山本氏は言う。
また、別の製品では、当時ワークフロー開発やその運用に関して公開されている情報が非常に限られており、インターネット検索などによってもその詳細を把握することが困難で、少し踏み込んだ情報を得るには高額なセミナーの受講が必須であるといったケースもあった。
そうしたこともあって、製品のトライアルに着手しながらも、実導入にはなかなか踏み切れずにいたところ、長年取引のあるSIベンダーから紹介されたのがUiPathだった。当時はまだUiPathの日本法人が立ち上がったばかりの頃で、Webサイト上のコンテンツなども多くが英語で記載されていて、日本語化が順次進められている状況だったという。「しかし、われわれが知りたいと思うほとんどすべての情報がUiPathのサイトなどインターネット上で容易に入手でき、さらには無料で利用可能なUiPath Community Editionや無償のオンライン学習サービスUiPathアカデミーも用意されていて、即座に試せる環境が整っていました」と山本氏は語る。
そこで早速、同社ではUiPathのPoC(Proof of Concept:概念実証)に着手。1カ月足らずの検討期間によって本格導入を即断した。またそれにあわせて、同社ではワークフローの開発・運用にかかわる組織体制の整備も進める。具体的には、情報システム部内にRPA課を設置し、同部の人員数名を他業務との兼任のかたちで配備した。
そのかたわら、RPAを適用すべき業務の発掘に関する取り組みもスタートさせた。具体的な施策として、社内で運用しているグループウェア上、あるいは実際に説明会を催して、RPAの紹介を行って、現場が自動化を望む業務を募った。
ところが、RPAの適用に関する要求は寄せられるものの、それをワークフローとして実装していくという作業は、実際には思うように進捗しなかったという。「というのも、兼任でアサインされているRPA課のメンバーは、情報システム部内で掛け持ちしている他の案件を、RPAの案件に優先させてしまう傾向があったのです」と語るのは松本奈津子氏。
そこで同社では、RPA課の人員を専任化すべく方針を転換。じっくり腰を据えて組織体制を固めていくことにした。具体的には、社内リクルート制度でRPA課への転属を希望する人員を募る一方、社外に向けた求人も行った。「RPAの技術はもちろん、プログラミングの経験なども一切問わないという方針で臨みました。学習環境も整い、インターネットや書籍などを通じて必要な技術情報が容易に入手できるUiPathなら、そうした思い切った人材調達のアプローチも十分に可能であると考えたわけです」と山本氏は言う。
そうした取り組みの結果、およそ1年後には、責任者である山本氏を除き、計6名のメンバーによる専任体制が整った。その中には、もともと同社の情報システム部に属していたメンバーは1人にとどまり、社内の他の間接部門にいた人材が1人、その他はすべて外部から採用した人員で、例えば、IT系専門学校で教員を務めていた人や、趣味的にRPAに取り組んでいた人材、さらには主婦を生業としていたメンバーなども含まれており、いずれもRPAに業務として取り組んだ経験のまったくない人員だった。
なぜRPA開発に応募したのかを各人に尋ねたところ、関本康二氏・宮園萌氏は「もともと自身でプログラミングに取り組んでいたものの、エンジニアとしていきなり就業を目指すより、比較的敷居が低く取り組めるところがRPAの魅力だった」とその理由を語る。社内公募で間接部門から異動した西山奈津子氏は「新しいことにチャレンジできて楽しそうだったうえ、プログラミング経験なしでも可能だったため」と続けた。「RPAが何かも知らないままアルバイトで入り、課の方から優しくOJTしていただき、社員として採用された」と話すのは、主婦からRPA Developerに転身した佐々木文乃氏。そして、「テレビで『RPA女子』が取り上げられていたのを見て、主人の会社がUiPathを導入しているのを知り、『新しい分野だから挑戦できるのではないか?』という一言から募集を知って現在に至る」と岡根淳子氏は言う。
関本氏は「ITスキルのレベルはそれぞれにバラバラでしたが、各自が熱意をもってUiPathアカデミーなどを使った学習に取り組み、OJTなども行うかたちで、およそ数週間から3カ月程度でワークフローの開発を自在に行えるようになり、半年くらいでワークフローの作成、あるいはテンプレート化などによる開発の効率化にも取り組めるようになりました」と語る。
こうしたRPA専任チームのもと、PPIH社では、2021年2月末の段階で店舗業務を中心に寄せられている250の依頼案件のうち、約170にのぼる業務をUiPathの適用により自動化している。適用の典型的な事例をあげるなら、ドン・キホーテの店舗ではかねてより、インバウンドで訪れる中国人旅行客が行うAlipayやWeChat Payなどのキャッシュレス決済を専用端末で処理し、日次でレジのデータと突き合わせるという作業を、人手で何時間もかけて行っていた。「そうしたチェックを自動で行い、誤りがあったり、怪しいところがあったりした際にだけアラートをあげて、人手による確認を促すという仕組みを実装したワークフローなどは、とりわけ目覚ましい成果を上げています」と岡根氏は紹介する。
RPAによる業務自動化をスピード感あるかたちで進めていくうえでは、ワークフロー開発の内製化が必須。そこではスキルの習得が容易なツールの選定が重要なポイントとなります。
株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス ITサポート本部 情報システム部 基幹システム運用課兼RPA課 責任者 山本 速都 氏
また、RPAの適用について現場からRPA課に寄せられる要望に関し、最近特に増えているのが、社内システムから売上関連データなどを抽出して、各店舗の求めるフォーマットで、その事業戦略に供する分析レポートを生成し、送信するというものだ。「これなどは、単なる省力化という枠組みを超え、これまで時間や人的リソースの制約から、各現場では行えなかった業務が、RPAの適用により実現可能になったものと捉えることができます」と宮園氏は強調する。
業務のワークフロー化の案件をこなすRPA課では、各自がその実践の中で獲得したノウハウなどを、プロジェクト管理ツールを活用してナレッジとして共有している。そうした取り組みを通じて、課全体でメンバーのスキルの底上げを図りながら、今後もRPAがもたらす、さらに高度な価値を全社に向けて提供していくことになる。