概要
株式会社リコー
所在地:東京都大田区中馬込1-3-6
リコーグループは「“はたらく”をよりスマートに」を、お客さまへ提供する価値として定めています。はたらく人の生産性向上だけでなく、働きがいの向上を実現することを目指して、テクノロジーとサービスのイノベーションでお客様のワークプレイスを変革し、社会課題解決への貢献を進めています。
光学製品や事務機をコアに、デジタル技術とサービスのイノベーションにより、そのソリューション領域をオフィスから現場・社会へと拡大し、常に新しい価値を提供し続ける株式会社リコー。経営基本方針の柱の一つとして業務プロセス改革を掲げ、それを実現するツールとしてRPAの活用を加速させている。独自のアプローチと体制によってスピードとガバナンスを両立させながら、直接業務も対象にするなど、製造業ならではのプロセス改革に、現場主導で、グローバルに取組んでいる。
株式会社リコーは、世界約200の国と地域で事業を展開するグローバルカンパニーである。事業環境の変化とグローバル化を背景に大きな変化を遂げる同社だが、創業の精神である「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」という三愛精神はいまも組織に息づいている。 大きな変化の中にある同社は、2017年の代表取締役社長執行役員・CEOである山下良則氏の就任とともに中期経営計画を発表した。計画1年目の2017年に「再起動」を掲げ構造改革を実行した。2018年から2019年は「挑戦」として成長戦略の本格展開と業務プロセス改革を中心に据え、2020年以降の「飛躍」に向けた重要なフェーズと位置付けている。
このような背景のもと、業務プロセス改革の目的についてCEO室室長兼プロセス改革PTリーダー 浅香孝司氏は次のように語る。「業務プロセス改革の本質は現場の困りごとを解決することです。これは単なるコスト削減を志向しているわけではありません。従業員を膨大な仕事の負荷や、正確性を求められる作業のストレスなどから解放し、イキイキと働ける環境を提供することです」
そのためのアプローチとして「RPAによる全員参加型の社内デジタル革命」が掲げられた。しかし、これは単なる作業自動化を指しているわけではない。「主役はあくまでも現場です。現場の力を支えるのは課題抽出力や課題解決力です。そのために現場において『KAIZEN』し続ける体質づくりが最も重要な目的です。社内のメンバーで構想から導入、運用、教育などを行うことに意義があるのです」と浅香氏は強調する。 実際に同社の中長期的な基盤を支える取り組みとしてRPA導入の準備が開始されたのは2018年2月のこと。まず経営トップのメッセージが全社員に発信され、同時にコンセプトや体制の整備が進められた。
CEO室 室長 兼 プロセス改革PT リーダー 浅香 孝司 氏
RPAによる業務プロセス改革を進めるうえで、その体制づくりと並行して製品の選定が行われた。プロジェクトを進めるうえで結成された推進チームはCoE(Center of Excellence)と呼ばれ、社内IT運用の経験を持つメンバーを中心に構成された。製品選定のポイントについてCoEメンバーのCEO室プロセス改革PTシニアスペシャリスト 中島崇氏は次のように説明する。「RPAのツール選定においては、実際に使用して評価を行いました。最終的にUiPathに決定した理由は、グローバル対応、現場社員でも使用できるユーザーインターフェイス、そして利用規模の拡張にも対応できるスケーラビリティです」 当初よりグローバルの事業所や関連会社での展開を念頭に置いており、あらゆる言語や地域で活用できるツールが必須となっていた点。また導入後の運用において、IT部門ではなく、現場の社員が中心になって導入や運用を前提としていたため、開発経験や専門的な知識がなくても活用できる点。最後に、国内から海外へ、適用業務も広げていったときに規模に応じた拡張ができる製品体系である点。「この3つの観点でのバランスを考えてUiPathが最も適した選択肢でした。さらに困ったときにインターネット上に情報が豊富にある点も評価が高かったです」(中島氏)
2018年2月に準備開始したRPAプロジェクトは、2か月後の4月にはCoEの体制を整え展開をスタート。各事業部からキーパーソンを選出し、自動化プロセスを開発するクリエイター教育を開始した。同時に意識的に行ったのが、経営トップからの徹底したメッセージの発信だった。プロジェクト開始時の宣言だけではなく、毎年作られる経営基本方針に必ず盛り込むとともに、年2回開催される社内事例などを共有するイベントである「RPA/AI OPEN College」では、現場のメンバーに対して社長や役員から直接褒賞される場を設けてモチベーションを向上している。さらにマンガなどを活用し、分かりやすい情報提供や、トレーニングコンテンツにより、常に社内での高い関心と技術的サポートによる継続的な展開を進めるための工夫が様々な形で行われている。 さらに当社の独自の取組みとして、社内の教育体制が挙げられる。これはCoEメンバーによって行われる教育プログラムで、新規展開を予定している海外事業所や部門などに対し、業務面とIT面からワークショップを通じてテーマ選定から実装までを学ぶカリキュラム。これにより最短で1週間程度で新規の展開が可能になり、グローバルに対する迅速な展開を可能にしている。
CEO室 プロセス改革PT シニアスペシャリスト 中島 崇 氏
業務プロセス改革を標榜して結成された当プロジェクトの成果は、約1年強の活動ながら、すでに多岐にわたっている。グローバルかつ全業務を対象としているため、基盤の確立と活動結果としての資産が最大の成果といえるだろう。基盤はRPAの開発や運用にまつわる一連のプロセスをカバーしている。これはコンセプトや考え方、体制といった枠組み、開発に関するルール、教育体制、情報交換のためのコミュニティ、そしてその中で輩出されるタレントやインセンティブという要素で成り立っている。そしてこれらの活動から創出された各種資料やガイド、Q&Aの蓄積が貴重な財産となっており、さらなる活用の礎となっている。
このような工夫がなされた導入や運用体制の結果、約1年間で国内外23社に展開され、国内だけで60プロセスに適用され、すでに年間16,000時間の工数が削減されていると試算されている。
しかし成果はこれだけではない。一般的には間接業務の自動化に適用されることが多いRPAであるが、すべての業務におけるプロセス改革を目指す同社では、事業のコアとなる直接業務自動化にも取り組んでいる。たとえば、製品化に必要な試験の自動化。「電圧変更などによる変化を実験で確認するにあたり、パラメータ設定と実験データの取得を自動化し、効率性の向上とミスの排除を実現しています。そのほかIoTと組み合わせ、実験プロセスの自動化にも取り組んでいます。このような環境もWindowsアプリケーションで管理しているものが多いので、対象領域は意外に広いのです」と浅香氏は述べる。
現場の社員だからこそ気付く課題をもとにロボット開発のテーマを抽出し、これを支援する体制によってすべての業務を対象にするというコンセプトが実現されている。製造業ならではの業務においても早い段階から活用されているのは同社の大きな特徴と言えるだろう。
このように、準備開始から約1年で多くの領域で成果を上げているが、さらなる進化に向けての計画にも余念がない。すでに500人以上が国内外を含めて教育を受講しているが、さらに多くの機会を提供するために「RPA Creators Academy」を準備している。これまでの対面での教育に加え、オンラインでのEラーニングにより、さらに広範に学習の機会を提供するものだ。加えて社内認定制度を採り入れ、モチベーションの向上とスキルレベルに応じた開発によって全体のガバナンスを維持し、さらなる進化を目指す。 また、利用範囲の拡大に対応して自社開発ツールを活用するなどUiPath Orchestratorの独自運用も進めている。増えてゆくロボットの適正な管理と活用シーンの拡大を両立しながら、同社の業務プロセス改革は全社レベルでさらに推進されてゆくことだろう。
最後に中島氏はUiPathの印象について「非常にスピード感のある対応に感心しています。問題が発生して検証している間に次のバージョンで直ってしまっていたり、追加機能を検討している間に標準機能で提供されてしまったりすることもよくあります。今後もより現場感のある製品作りを楽しみにしています」と将来への期待感も含めて締めくくった。