業務効率化により、2018年~2021年の4年間で累計40万時間創出
社内で稼働するワークフロー数は500を超える
迅速な顧客情報の社内フィードバックで適切な顧客フォロー実施
概要
三井住友信託銀行株式会社
本社 : 東京都千代田区丸の内一丁目4番1号
銀行業務と信託業務をフルラインで行う専業信託銀行。個人の資産運用や法人の企業年金の運用や証券代行、不動産の管理など、さまざまな資産を扱う。
業務効率化の枠を超え、業務品質の向上や顧客アプローチの高度化を目指す
信託銀行の業務は、銀行業務・信託業務・不動産業務と多岐に渡る。
以前から業務の効率化に取り組んできたが、2018年にUiPathを本格導入することで大幅な業務工数の削減に成功。
現在はさらに先を見据えて、テストの自動化や業務プロセスの可視化などに取り組んでいる。
専業の信託銀行である三井住友信託銀行では、顧客の財産資産を預かり、意向に沿った運用管理などを幅広く担当する。
個人であれば、貯蓄資産形成段階(住宅ローンを通じた資産形成を含む)から遺言・遺産相続遺産整理、法人であれば、企業年金の運用や給付、株主名簿管理、そして不動産の運用、さらには車両や船舶の信託まで、業務範囲はとても広い。
こうした少量多品種業務の効率化が、大きな課題だ。
RPAを統括管理するのはデジタル企画部。
どんどん数が増えつつあるRPAの統制・統括に活用しているのが、UiPath Orchestratorだ。
「Orchestratorで各ロボットの稼働状況がわかります。今後、ワークフローの数が現在の500から、1,000、そして10,000になっても、あまり労力をかけずに対応できる体制を取れています。RPAに限らず最近のさまざまな技術のアーキテクチャはクラウドベースになってきているので、他の分野においても、同様に管理していけばよいということがよくわかりました」
とデジタル画部の平方氏はいう。
同社がUiPathを採用した背景には、UiPathの基本の設計思想や理念への共感もある。「UiPathは、事務処理を単にロボットで処理して効率化するだけではなく、設計に柔軟さがある。お客様の利便性やニーズをいち早く察知するために、マーケティング目的で、AIと連動した形でRPAを使うこともできる。そのような、先を見据えた、お客様への価値提供が実現できるという点で、我が社の考えと合致しました」と執行役員常務の益井氏はいう。
■業務の可視化住宅ローン繰上返済に関する問い合わせ対応業務のフローを可視化・アクティビティの数に対し、エッジ(→)の数が多い(=バリアントの数が多くなる)。・ケース数の大きさが線の濃淡で表される。
UiPathにはローコードで開発しやすい特徴に加え、UI操作の精度が高いという強みがあるため、通常のスクラッチ開発に比べて、短い期間で開発できる。
実際に開発を担当している三井住友トラスト・システム&サービスの小池氏は、「JavaやC#での開発に比べると、非常に短い期間で作れました。」という。
同じく開発を担当している三井住友トラスト・システム&サービスの清水氏はひとつはUiPathの開発ツールである「UiPath Studio」、デバック機能や静的解析ができる環境、共通処理の部品化など、開発環境として持っておいて欲しい機能があり、安心感がある。
もうひとつは拡張性。AIやProcess Miningなど、エンドツーエンドの自動化を実現できる機能強化の製品群の提供が魅力的なところだそうだ。
RPAは自身の能力を拡張してくれるという、少し大きな目標の第一歩として取り組むと面白いのではないか
三井住友信託銀行株式会社経営企画部デジタル企画部長 兼 Trust Base株式会社取締役COO 平方壽人氏
RPAは自動化対象のシステムのUIが変わることで、突如ロボットが実行できなくなることもある。そのため、継続的に品質を維持・向上を進めるためのテストが不可欠だ。
現在、多くの労力をかけているテストには、Test Suiteを導入することで、その多くを自動化する計画が進行中。
他の開発の際にも使えるのではないかと判断され、先んじてRPAとは直接関係ない海外勘定系システムの開発でも活用し始めているという。
同社は最近、AIやデータサイエンスとの連携にも注目している。データサイエンスでは、データの取得から整形・加工・蓄積といった作業はもちろん、分析した後も、有効に使うための集計や可視化が重要だ。
しかし、1件あたりの分析やフィードバックの労力は大きい。そこでAIやBI、データ基盤との連動などを、RPAも使いながら一気通貫で行えるように進めている。
1件あたりの分析労力を下げることで、社内のデータサイエンスの活用拡大を加速させていく方針だ。
また、実際の作業ログから作業を可視化するツールである「Process Mining」も活用しているという。
信託銀行業務は、顧客の多様なニーズに応じる特性上、内容が複雑化し、マニュアルに記載し切れないような業務も多くあるが、Process Miningを使えば、一人ひとりがどういう手順で業務にあたっているかを可視化できる。
その結果、一番効率的で正しい業務フローも見えてくるし、普通から外れた作業をしている状況があった場合も可視化するので、リスク管理にもなる。
また、全体のプロセスをProcess Miningで分析することで標準化し、組織全体の業務効率を引き上げられる。
「UiPathは、RPAを軸にしつつもProcess MinigやTest Suiteをはじめとしたさまざまな先端テクノロジーを開発・提供してくれます。これはRPAによる効率化にとどまらず、業務変革に必要な新たな目線やアプローチも提供してくれているといえるでしょう」と平方氏はいう。
個人企画部では、アンケート結果の集計にRPAを導入した。
同部では従前から将来に向けた資産形成や運用などの情報を提供する対面形式のセミナーを開催していたが、このコロナ禍で、急きょオンラインに切り替えた。
対面開催時は、その場で質問へ回答したり、顧客の悩みに応じたフォローをしたりできたが、オンライン形式になると、視聴アンケート結果を本部が取りまとめて還元しないと、各店部がその内容を把握できなくなった。
オンラインセミナーは常に複数並行して公開されているので、顧客一人ひとりのアンケート結果を還元するには、本部担当者の作業負荷が大きく、月次での還元が精いっぱいの状況だった。
アンケート結果の還元が遅れると、店部担当者からの的確なフォローが難しく、その後の成約へもつながりづらくなってしまう。そこでタイムリーな還元を実現すべくRPAの導入へと至った。
RPAを導入した結果、従来は週1回、1日あたり5時間くらいかかっていた業務が、ボタン1つで最後まで自動で作業でき、30分程度で完了するようになった。
「時間を削減したいというのはもちろんですが、私たちは基本的に企画業務担当なので、すでに定型化されたオペレーションのために時間を使うよりも、たとえば、もっと良いコンテンツを作るとか、もっと良いフォローを推進することに時間を割きたいという思いが強かった。
定型化されているオペレーションをRPAに対応してもらうことで、本来注力すべき業務の方に時間を割けるようになったのが大きなポイントです」と個人企画部の小野氏はいう。
また、今回の業務にとどまらず、今後を見据えたRPAの活用について、同部の曽根氏は語る。
「オンラインセミナー視聴のお客様以外にも、お客様の属性やニーズに合わせた情報をタイムリーに且つ継続的に提供していくことが、顧客アプローチの高度化につながると思っています。RPAを活用することで、そのような仕組みづくりができればいいなと考えております」
今後はさらにAIを使って分析し、適切な顧客に発信するマーケティングや提案の手段としても活用していきたいとのことだ。
RPAを導入することで、累計40万時間の創出を実現したが、それは単純な作業時間の短縮という枠を超え、業務品質の向上や顧客満足度の向上につながっていくものだと平方氏は語る。今後の技術的な広がりについて、平方氏は次のように考えている。
「RPAを軸に、さまざまな自動化のツールを広げて、自動化のレベルをどんどん引き上げていきたい。今は作業の一部を任せているような状況だが、できるだけ自動的にロボットが稼働してくれるようにし、人間の役割はロボットたちを監視し、うまく使いこなす方向へと変えていきたい」
Process MiningやTest Suiteの活用で自動化のレベルを「引き上げる」